日本やヨーロッパではスピーカーでもハイエンド製品は珍しくない。しかし北米ではそうしたモデルは数少なく、ロックフォードでも比較的手頃な価格帯のスピーカーしか発売してこなかった。
それには北米市場の特徴が影響している。もともとパワー指向が強いせいか、高額なスピーカーでハイファイを目指すよりも、低価格なスピーカーをたくさん取り付けてパワー再生を好む傾向があるようだ。このため高いスピーカーを出しても売れないので、名門中の名門であるロックフォードでも、ハイエンド・スピーカーには躊躇してきたようだ。
ところがここ数年の間に、事情が変わったようである。新たにスピーカーの専門技術者が加わったこともあるようだが、ロックフォードとしても初めてのハイエンド・スピーカーを開発しようという企画が始まった。時を同じくして日本の輸入元であるイース・コーポレーションが主導してJ3が開発されたのも興味深いが、これはそれとは別の話である。
その第一弾として発売されたのが、昨年取り上げたT3652-Sだが、さらにその上のモデルT5652-Sが発表になった。文字通りのフラッグシップである。
振動板にはやはりT3と同じく、液晶ポリマー(LCP)が使われている。しかしその構造は単純なLCPコーンではなく、さらに入念で複雑だ。
トゥイーターは1インチのリングラジエーター・ドームで、中央には銅製のフェイズプラグが装着されている。周波数レスポンスを均一化し、音波の相互干渉を防いで位相を正確にするための装備で、トゥイーターには比較的珍しいといえる。
ウーファーはこのLCPをファイバーにしてコーン形状に形成し、パルプを挟んで3層構造としている。軽量で剛性と内部損失に優れたLCPの特徴を、3層とすることでさらに拡張した設計である。そしてエッジにはVASTという新技術を活用し、振動板の実効面積を25%も拡大している。ダンパーはノーメックスである。
もうひとつユニークなのがクーリングシステムで、IDHSというヒートシンクが形成されている。銅製のフェイズプラグからネオジウムのマルチポール・マグネットまで直結して、効率的に放熱を行う。フレームはいうまでもなく、アルミダイキャストのバスケットである。
数々の注目技術を搭載したT5は、紛れもなくハイエンドそのものだ。すでにT3でLCPの威力は見ているが、T5ではどうなのか。試聴は次週にお伝えしたい。
- T5652-S
- 仕様:16.5cm2Wayコンポーネントスピーカー 標準小売価格252,000円(税込) ●最大入力:300W ●定格入力:150W ●公称インピーダンス:4Ω ●周波数特性:45Hz~40kHz ●能率:88,5dB ●取付穴直径:144mm(ウーファー部) ●取付深さ:71mm(ウーファー部)●スピーカーグリル:サイズ(幅×高さ)181mm×24mm