フランクフルトショーで鮮烈なデビューを飾ったクロスオーバーのコンセプトモデル『マツダ 越 KOERU』。東京モーターショーでは『RX-VISION』が目立つ一方、かなり現実的な意味合いを持つ。将来の可能性も含め、チーフデザイナー小泉 巌氏に話を聞いた。
----:フランクフルトに展示されたものから、何か進化しましたか?
小泉巌氏(以下敬称略):いえ、フランクフルトで展示したものと同じものです。このショーに間に合うよう空輸してきました。
----:ではその時と同じ完全なモックアップ状態というわけですね?
小泉:はい、すべてフルカーボンで仕上げたモックアップで、クルマは動きません。
----:改めてお聞きしますが、従来の「魂動」に比べてデザイン面での進化はどこにあるのでしょうか?
小泉:今までの「魂動」デザインの量産車は、ある特定の枠内で作らざるを得ない部分があって、どうしてもセグメントのカテゴリー的な制約を受けていました。そのカテゴリーを越えることによって、我々のグランドメッセージをピュアに表現できるものとしました。
----:その具体的な部分を教えて下さい。
小泉:平面方向の抑揚が強く出せるようになったことが最も大きいですね。寸法的な余裕が生まれるようになったので、フェンダーを見てもわかるように、今までは上下のグラフィカルなデザインを表現したのですが、これは平面の動きを強くして全体のボリュームを変化させることで動きを表現しています。この動きをテーマにするのは「魂動」のフィロソフィーを引き継いでいるわけですが、その表現がより立体的にボリュームのある変化へとつながっています。この映り込みにも見えている、しなやかな面の変化によって伝わっていく。デザイン面での進化はここにあります。
----:見た感じではSUV的な要素がたくさん含まれているようにも見えます。
小泉:これはSUVではありません。あくまでクロスオーバー車という思いでデザインをしています。SUVにあるようなユーティリティはそこまで追求していないんです。その主旨は、“走る喜び”というブランドメッセージと、ユーザーの豊かなライフスタイルを持ったユーザーに合わせ込むことにあります。二人乗りのスポーツカーではできないけれど、このクルマならできる。それでいて車高をこれまで低くすることで安定した走行性能、つまりファン・トゥ・ドライブのフィールを楽しみつつ、スポーツカーのような流麗なスタイリングが手に入るものを目指したのです。
----:そこには一般に言われる車高1550mmは意識されたのでしょうか?
小泉:いえ、そういう枠は一切考えていません。あくまで走りとデザインを追求した結果、全長4600mm×全幅1900mm×車高1500mmになったということです。
----:では、敢えて言わせていただきますが、世間で言われているような『CX-5』の後継ではない?
小泉:全然違います。CX-5はコンパクトSUVのウィナーになるために作った車ですので、そのカテゴリー内でマツダらしさを加えたものです。
----:ターゲットとするユーザーはどんなイメージを抱いていますか?
小泉:敢えて言えば“ヤング ライフスタイル エリート”でしょうか。ある程度収入があって、なおかつ自由になる時間もある。そんな時間を使ってアクティビティ溢れる生活をする。そんなみんなが憧れるようなライフスタイルを過ごせる人はどんなクルマに乗りたいんだろうか。そんなことを頭に描きながら完成させました。
----:かなりの自信作であることがわかりましたが、その割に展示は控え目でしたね。
小泉:実はフランクフルトではこの越 KOERUを、東京ではRX-VISIONをメインにすると棲み分けが決まってました。その結果、フランクフルトでは越 KOERUが一定の評価を得ましたし、その意味でこの越 KOERUのマザーマーケットである日本での反応も気になっています。このクロスオーバーデザインをうまく融合したデザインをグローバルに発信することによって、我々が将来をどう描いているのかを見ていただきたいと思ってます。
----:このデザインの商品化への実現性はいかがでしょうか?
小泉:まだ具体的なものは何もないです。しかしSKYACTIV技術や新世代コンポーネントを使えば実現できるというものではあります。その意味では、RX-VISIONより現実的なデザインではあると思います。