【卸・問屋の新戦略:3】ネット問屋は効率化の必然である | Push on! Mycar-life

【卸・問屋の新戦略:3】ネット問屋は効率化の必然である

 東京や大阪など主要都市で行われる商談会で商品を卸値で買い、ひいては地方都市でさらに卸値で売る。対面を基本とした既存の一次・二次問屋の存在意義をゆるがしているのが「ネット問屋」の台頭だ。

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小売店では問屋を回り、商品を探し求めるコストを抑える傾向にある
  • 小売店では問屋を回り、商品を探し求めるコストを抑える傾向にある
  • 「スーパーデリバリー」のサイト。会員になることで卸値が表示される
  • 「スーパーデリバリー」の仕組み図。決済事業や保証事業が、主力事業の魅力を倍増させる
  • ラクーン 代表取締役社長 小方功氏
  • 今年3月に東証一部に上場したラクーン。平均年齢33.4歳というスタッフで、8年連続増収増益と好調が続く

【記事のポイント】
▼問屋のIT化で小売店は仕入れの、メーカーは営業の出張経費がゼロになる
▼電話やメールを利用するよりも、日常的な業務を大幅に省力化
▼バックエンドの決済サービスや受発注システムそのものが、新たな商売の種である

■8期連続増収増益の先駆けネット問屋の勢い

 東京や大阪など主要都市で行われる商談会で商品を卸値で買い、ひいては地方都市でさらに卸値で売る。対面を基本とした既存の一次・二次問屋の存在意義をゆるがしているのが”ネット問屋”の台頭だ。いまや消費者があらゆる商品をインターネット上の写真や説明、口コミを基に購入する電子商取引が一般的になったように、全国各地の小売店側もまた”出張経費ゼロ”の魅力に惹かれ、卸・仕入れサイトで商品を仕入れる流れが生まれている。

 アパレルや雑貨商品の卸・仕入れサイト「スーパーデリバリー」はそうしたネット問屋の先駆けだ。02年に開設し、16年4月末現在、商品掲載数は約 56 万点。1138 社の出展企業と全国5万2372店舗をつなぐ企業間(BtoB)取引の一大モールに成長している。

 運営するラクーンは現在、スーパーデリバリーを主力事業に8期連続の増収増益で、今年3月には東証一部に上場。7月末に発表された16年4月期の有価証券報告書によると、平均年齢33.4歳の100人強の社員で経常利益2億5千万円を稼ぐ。

 著書『ネット問屋で仕入れる 小さなお店のスーパー仕入れ術』(商業界)を09年に出した小方功社長に、問屋とITを組み合わせた理由や今後について話を聞きにいくと、こんな言葉が返ってきた。「ネットだから成功したって言われるけど、そうじゃないんだよ」。いま必要とされているものを提供するから、右肩上がりの成長を続けているのだという。

■「勘と度胸と経験」の大半をIT化しサービス化

 問屋流通でいま求められているものとは何か。小方社長は、まず小売店が自社を利用する背景について、”小売店のセレクトショップ化と地方問屋の廃業”を理由に挙げる。

 消費者ニーズが多様化する中で、ユニークさがあれば地域の小売店でも生き残ることが可能な現在、無数の商品の中から自社に合ったものを1点から購入できる同サイトは利便性が良いのだという。同社サイトには毎日、「本日の新着商品516商品」といった風に新着情報が提供され、年々早まる世間の流行のスピードにも対応する。地方問屋が倒産する動きもある中で、「いまでは仕入れは100%スーパーデリバリーだという小売店もある」という。

 一方、メーカー側にとってはサンプルを持って各地に営業に回る必要がなくなる。同社を利用する企業はメーカー・小売店、共に中小企業が大半だというが、「従来のファクスと電話、メールでの注文作業を効率化したくて、取引先を連れて参入する大手メーカーもある」という。実際、14年末にはワールドが参入し、業界を驚かせた(現在は撤退)。

 さらに、同サイトの利便性を高めているのが、同社のほか事業だ。11年にすべての請求業務を代行するBtoB後払い決済サービス「Paid(ペイド)」を、14年に受注・発注をクラウド上で一元管理し効率化する「COREC(コレック)」を提供。今年7月には“取引には保証をかける時代”と題して、年商5億円以下の中小企業が利用できる、月額定額制でかけ放題のネット完結型・売掛保証サービス「URIHO(ウリホ)」をリリースした。

 小方社長はこう話す。

「我々は業界初のことしかやらないんです。お客さんがすでに利用できるほかのサービスがある場合は、やらない。本当にお客さんが困っているとき、そのサービスがまだないとき。そういうときに提供します。(業界には)閉塞感があり、困っている人を、助けたいんです」

 いわば、勘と度胸と経験で商売を乗り切ってきた業界人が、常に背中合わせとして抱えていた不安を解消するサービスを提供することで、成長し、同業他社のネット問屋との差別化を図ってきた。

 取引に不安を抱え、いままで以上に業務を効率化したいと願うのは、アパレルと雑貨業界だけではない。ここ数年、スーパーデリバリーの取扱い商品は、梱包資材や食器、家具、本まで多様化。同社が”出会いの場”になることで、セレクトショップに店のイメージにあった絵本や写真集が並ぶ、という新たなシーンを生み出している。今年7月からはさらに、これまで小売店に限っていた買い手を、飲食店やホテル、病院にまで広げることを発表した。

 受注・発注のクラウド一元管理サービス「COREC」においても、サービス開始から約2年目の今年2月にユーザー数が5000社を超え、特に農家と飲食店をつなぐツールに成長している。同社の事業を総合的にみると、今後、スーパーデリバリーで扱う商品に生鮮品が加わるのかどうかも注目される。

■IT化の先に「垣根の撤廃」と「連携」の動き

 多くの商品との出会いを創出し、連鎖倒産といった売り買いの不安も解消させる――。ネット卸を中心に複数のサービスで”インフラ”になろうとするネット問屋先駆けのラクーンは今後、どういう方向に進もうとしているのか。

 いま小方社長らは、国内と海外をつなぐ仕組み作りに新たに取り組み始めている。一つは、昨年から始めた海外輸出支援サイト「SD export」だ。日本製品の海外輸出を国が後押ししようと補助金なども出される中、小さな事業所が海外に進出し、費用や手間暇で忙殺される様子を垣間見て始めたという。サイト開設はこれを受けてのもので、日本メーカー500社の約7000品の商品が、国内向け「スーパーデリバリー」と同様の便利さで、海外のバイヤーに商品を卸すことができる場が生まれている。

 もう一つは、国内の縫製メーカーやパタンナーの支援だ。中国の縫製工場の人件費が上がるとともに、国内工場に戻ろうとするニーズがある中で、すでに疲弊して息も絶え絶えの国内の縫製工場はそもそもホームページを持っていないという現状があった。そこで、昨年から登録無料で国内の縫製メーカーやパタンナーを紹介できるサイト「SD factory」を開設。同時に「スーパーデリバリー」を利用するメーカーにも紹介されるため、多額の借金を抱え、月々の返済に苦しんでいた中小の縫製工場に新たな受注が入り、息を吹き返す、という動きも起きているという。

 小方社長はさらに、次の段階として、国内で働く場所がなくイタリアに飛んだ日本人デザイナーやパタンナーたちと国内の縫製工場をつなぐ新たな「Made in JAPAN」の夢を描いているという。

 問屋がIT化して、メーカーと小売店のネットワークが生まれた。そこに今、”モノからコトへ”という時代の流れを象徴するような、さまざまなサービスが芽吹きつつある。その先にはどういった世界が開けるのか? アパレルや雑貨を中心に道を開いたラクーンが今後、取引保証という責任の重い荷物を背負いながら、どう飛躍し続けるのか。扱う領域をどこまで広げるのか。日本の問屋及び流通の在り方を探るうえで、貴重なモデルケースになるだろう。

《塩月由香/HANJO HANJO編集部》
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