ホンダ『N-BOX』は、言わばニッポンの「フォード Fシリーズ」である。意味不明という読者に少し説明しよう。
アメリカにフォードFシリーズと呼ばれるいわゆるライトトラック、即ちピックアップのモデルが存在する。このクルマ、1981年以降今日まで40年以上にわたり、北米で販売されるすべての自動車の中でベストセラーであり続けている、ある意味伝説的なモデルである。
翻ってN-BOXである。2011年に誕生したクルマだから決して歴史のあるモデルというわけではないのだが、発売当初から大ヒットモデルとなり、今日まで軽自動車の新車販売台数において9年連続でベストセラーの座を守り続けている。さらにすべての登録車においても3年連続でベストセラーとなり、驚いたことに昨年10月にフルチェンジして3代目に移行したモデル末期、つまり2023年上半期の販売においてもまだ、登録ベースでベストセラーの座にあったのである。
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ここまで人気があるのならモデルチェンジの必要はないだろう…と誰もが考えると思うが、そこが開発者との大きな違いで、フォードの場合の絶頂期にライバルのモデルチェンジを見計らってニューモデルを投入しているからこそ、長年ベストセラーの座を維持し続けているのだと思う。ホンダも同じだ。
そういえば先代に試乗した時にカスタムの方がノーマルN-BOXに比べて静粛性が高く感じられ、そのことを開発者に伝えたところ、遮音材をより多く使っているのだという話を聞いた。少し高いのは単にターボエンジンを搭載しているからではなくて、こうした点に配慮しているからかもしれない。
◆目をつぶって乗ったら軽とは気づかない?
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それにしてもこのクルマ、目をつぶって乗せられたら軽自動車だと瞬時にわかる人は少ないのではないだろうか。それほどこのクルマの静粛性、快適性、それに動力性能は抜きんでていて、ライバルのモデルと比較した時も一頭地抜きんでている。
とりわけ感心させられるのは快適性である。決められた寸法の中で最大の室内空間を得ようというコンセプトから始まったいわゆるスーパーハイト系のモデルは、はじめのうちは寸法的な満足感は得られたものの、走りの点ではひょこひょことしたピッチングやロール剛性不足が感じられて、我慢を強いられる動的性能だったのだが、このN-BOXを含め昨年登場したモデルはどれもそうした我慢の必要がない、言ってみればリッターカー(死語か)と肩を並べるレベルの出来栄えを見せる。
静粛性しかり。先代でも十分に静粛性が高いと感じていたが、一般道で流れに乗って走るような状況だと、ほとんどアクセルを踏み込む必要がないから、発するノイズは風切り音だったり、ロードノイズに終始し、メカニカルノイズはほとんど室内に侵入しない。残念ながら目一杯室内空間を確保するパッケージングだから、風切り音が出るのは致し方なしか。それにしても高速で乗っても静粛性は滅法高い。
◆エンジニアリングの勝利!
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以前のように高速における最高速が80km/hではなく、普通車と同じ100km/hとなっているから(古い話だが)、例えば80km/h付近からパーシャル加速を試みると、ターボの威力をしっかりと味わうことができる。
若干のターボラグは感じられるものの、その力強さはやはり軽の域を超えている。というわけで少なくとも動的な性能には文句のつけようがない。運動性能についてもしかりで、重心が高いから極端なコーナリングには不安を伴うが、いわゆる常用域での運動性能はまさにスイスイというレベル。実に快適である。
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インテリアはだいぶ変わった。メーターに7インチTFT液晶モーターを採用してステアリングのリムの内側から視認するようにさせた。以前はリムの上から見ていた。結果としてダッシュ上面がフラットになり、全体的にすっきりとしたデザインになっている。ディスプレイの隣にトレイを設置したのは数日乗ってみて中々使い勝手が良いと感じた(もっぱら携帯を置いていたが)。
多くの部分がキャリーオーバーなのだそうだが、それを感じさせないフルチェンジ感を演出できたのはエンジニアリングの勝利と言えよう。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。