J5653-Sの音質を支える素材と構造は、これまでにない音を作るため、そしてメイドインジャパンらしさを表すこともあり、これまでのスピーカー作りとは違ったこだわりに満ちている。
ハイエンドカーオーディオに新しい音を与えた素材と構造について見ていこう。
ロックフォードブランドではあるが、このスピーカーは正真正銘のジャパンオリジナルで、企画から生産まで一貫して日本で行われている。もちろん、音質や製品のクォリティに関してはロックフォード本社の厳しいチェックを受けて認証をもらっており、正真正銘のロックフォード製品でもある。
この3ウェイスピーカーのスペックについて触れておこう。トゥイーターの振動板はチタンで形状はドーム型だ。再生周波数特性は1.3kHz~30kHzとワイドレンジ再生に対応する。ミッドレンジの振動板もチタンで剛性確保のためにリブを付けている。再生周波数特性は220Hz~30kHzと、一般的なワイドレンジトゥイーターよりもさらにワイドレンジ再生が可能となっている。ウーファーの振動板はアルミで、アラミド繊維のハニカム構造体をグラスファイバーでサンドイッチしたものを貼り合わせてある。アルミ振動板自体は非常に薄く、タンジェンシャルを付けて剛性を確保した。
この金属振動板による3ウェイユニットはこれまでにもあったが、J5653-Sは日本ならではという技法を取り入れた。それが日本の伝統工芸である「漆(うるし)」塗装だ。金属振動板は、音の伝搬速度は速いが内部損失が少なく素材固有の音が出やすい傾向にある。そこで漆を塗ることによって固有音を抑え、理想的な振動板に仕立て上げたのだ。この結果、音離れがよくそれでいて芯が太く柔らかさも持ち合わせた、音楽再生にうってつけの特性を得た。振動板の厚さや形状もさることながら、漆の塗り方ひとつで音が変化するため、製品化されるまでには多くのカットアンドトライが繰り返されたという。また、製品化されたものも、厳密な振動板の特性チェックでOKが出たものだけが使用されている。
この振動板をより効率的に動かすために、磁気回路やフレームも既存のものではなくJ5653-Sのためだけに新設計された。マグネットは磁力の強いネオジウムをできる限り大型化と最適な形状を開発。ボイスコイルは平角ワイヤーに特殊なコーティングを施して磁力効率も大幅に向上させている。これらの組み合わせにより、強力な磁束密度を持つ磁気回路が生み出され、振動板を入力振動に対してリニアに駆動するユニットが完成した。アルミダイキャストフレームの形状や素材も吟味され、放熱や背面の空気の流れ、磁気回路を含めたユニット全体の剛性を高める形状が採用されている。
厳選された素材と技術、そして日本の伝統工芸が一体となって生まれた、世界に誇れるスピーカーが、J5653-Sだ。次回はこのスピーカーの開発経緯についてレポートするのでお楽しみに。