とにもかくにも、輸入クロスオーバーSUVで286万2000円のスタートプライス、戦略的価格設定にはびっくりだ。
それはフィアット『500X』のこと。スタイリングは往年のチンクエチェントをほうふつさせるもので、そのスケールアップ版というイメージ。誰もがこのSUVをチンクエチェントのファミリーだと思えるに違いない。
プラットフォームは同じFCAグループのシープ『レネゲード』と共用するため、ボディサイズもレネゲード同等の全長4250×全幅1795×全高1610mmに達するものの、それでも日本の路上で扱いやすいBセグメントのコンパクトSUVであることは間違いない(フィアット500と500Xのサイズの違いは写真を参照していただきたい)。
500XにはFFと4WDが用意されるが、今回試乗できたのはFFのみ。ここでは286万2000円のベースグレード、「ポップスター」に試乗した。
ポップスターと上級の「ポップスタープラス」とは、1.4リットル直4ターボ、140psのマルチエアーユニットと6速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)の組み合わせ、および15.0km/リットルの燃費性能(JC08モード)までは同じで、主な違いはシートの素材、タイヤサイズと先進安全装備の差だけ。
具体的には、ポップスタープラスのシートはシートヒーター付きのパワーレザーシートとなり、タイヤサイズはポップスターが215/55R17、ポップスタープラスは225/45R18。さらにポップスタープラスにはレーンデパーチャーウォーニング(車線逸脱警報)、前面衝突警報、ブラインドスポットモニターなどが装備されるのが差異である。
ちなみにスタビリティコントロール、ヒルホールドシステム、電子制御ディファレンシャルロック、7エアバッグなどは全グレードに標準装備される。
つまり、戦略的メイングレードはポップスタープラスで決まりだろう。ポップスターとの価格差は21万6000円に押さえられているあたりもなかなかである。
ポップスターとポップスタープラスの走り、乗り味の違いは、1380kgの車重がまったく同じことから、タイヤサイズによるところがほぼすべて(シートのかけ心地もあるが)と考えていい。
ならば、17インチタイヤを履くポップスターのほうが乗り心地面で有利…と思って当然だろう。ボクもそう期待した。
しかしだ。基本的に硬めでしっかり感ある乗り心地は、東京都内から高速湾岸線、大黒PAを折り返し点にして両グレードを乗り換え往復した試乗コースでは、意外にもこちらのほうが段差など路面によって車体が上下に揺すられやすく、フラット感、落ち着き感ではわずかだがポップスタープラスに軍配が上がると思えた(個体差かもしれないが)。
もちろん、カーブやレーンチェンジでのハイレベルなタイヤのグリップ感、自然で安心感あるロール感、素直に曲がってくれる安心軽快でスポーティな操縦性は両グレードで大きな差はなし。6速DCTによるダイレクトでスムーズな加速性能、静粛性の高さもまた同様だ。
ポップスターと、パワーレザーシートや先進安全装備をプラスしたポップスタープラスとの価格差は21万6000円。決して小さな差ではないものの、内容からすれば、お薦めはポップスタープラスとなりそうだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★
青山尚暉|モータージャーナリスト/ドックライフプロデューサー
自動車専門誌の編集者を経て、フリーのモータージャーナリストに。自動車専門誌をはじめ、一般誌、ウェブサイト等に寄稿。自作測定器による1車30項目以上におよぶパッケージデータは膨大。ペット(犬)、海外旅行関連の書籍、ウェブサイト、ペットとドライブ関連のテレビ番組、イベントも手がけ、犬との自動車生活を提案するドッグライフプロデューサーの活動も行なっている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。