カーオーディオ・プロショップに取材し、音楽ジャンルごとのシステム構築術とサウンドチューニング術を訊いている。今回はその2回目として、「ヒップホップ」や「R&B」といった「ビート系ミュージック」に向いたユニットチョイスや調整法を研究していく。
今回ご協力いただいたのは、佐賀県の実力ショップ“ケンテック”の筬島(おさじま)さん。Hi-Fiからカスタムまでオールジャンルで対応可能な筬島さんに、今回は、「ヒップホップ・R&B」に向いたシステム構築法とチューニングテクニックをお訊きした。
■“メリハリ”と“レスポンスの速さ”に注目せよ!
まずは、「ヒップホップ・R&B」に向いたスピーカーのタイプからお訊きした。
「ヒップホップやR&Bは、重低音から高音まで、案外、レンジが広いですよね。なのでスピーカーも、ディープな低音が出てさらには高域も伸びる、ワイドレンジなタイプが向いていると思います。その上で、メリハリが効いていて、かつレスポンスの速いタイプがベストだと思います。レスポンスが速いと、小気味良くビートが刻めますから。
ミッドウーファーの振動板素材は、ファイバー系などの軽いタイプが良いのではないでしょうか。レスポンスが速いですからね。そして、トゥイーターの振動板は、金属系がおすすめです。上も出ますし、カチッとした高音で、リズムのノリもよくなると思います。
ヨーロッパ系かアメリカ系かでいえば、アメリカン・ブランドが向いていると思います」
次にはサブウーファーについてお訊きした。
「サブウーファーはあったほうが良いのですが、サブウーファーの効果を最大限引き出すためには、ミッドウーファーがしっかり鳴っていることが条件になります。ですので、もしもドアのデッドニングが後回しになっているのなら、まずは、デッドニングから手を付けていただきたいですね。
そして、ドアのスピーカーがしっかり低音まで鳴らせるようになった段階で、サブウーファーを導入しましょう。おすすめなのは、10インチを2発。小口径タイプのほうがレスポンスが速いので、タイトにリズムを刻めます。その上で2発遣いにしてエネルギー感も担保します。
音色を追求していくと予算も膨らみがちになるので、そのあたりを深追いせず、反応の速さとパワー感優先でユニットチョイスをすると良いと思います。だからといってそのようなタイプのサブウーファーが女性ボーカルをしっとりと聴かせられないかというと、けっしてそんなことはありません。そのあたりは調整で追い込むことができますし、ある程度はオールラウンドに鳴らせます。音色を追求して高価なモデルを買い求めなくても、大丈夫です。
磁気回路は強力なタイプのほうが有利ですね。しかし、そういったタイプはパワーをしっかりとかける必要がありますから、パワーアンプもそれなりのものが必要となってきます。なので、磁気回路が強力かどうかについてもあまりこだわらず、それよりも全体の予算に応じて、無理のないモデルを選ぶことが大切だと思います」
■ビート系ミュージックでも、最後は“ボーカル”が大事!
続いては、「ヒップホップ・R&B」を気持ち良く聴くためのサウンドチューニング術についてお訊きした。
「ミッドウーファーがどこまで鳴るかが大事です。なので、しっかりとした取り付けを実践して、ミッドウーファーができる限り低い帯域までを鳴らせるようにしたいところです。そしてそのような状況を作った上で敢えて、サブウーファーとのクロスポイントを上目に設定すると面白いと思います。63Hzあたりに設定しても問題ないような状況の中で80Hzに設定し、ミッドウーファーの負担を減らしてやるんですね。こうしてストレスを軽減させることで、結果、ボーカル帯域の音質を良化させることができるんですよ。
ビート系ミュージックでも最後は、ボーカルが気持ち良く聴けるかが重要になってきますので、ボーカルに着目して調整していくと良いと思います。そして大事なのは、“繋がり”です。サブウーファーとミッドウーファーとの繋がり、ミッドウーファーとトゥイーターとの繋がりが良くなるように、タイムアライメントと位相を上手く整えていきたいですね。
ボーカル帯域は、ほとんどがミッドウーファーから聴こえてきますので、ミッドウーファーだけの問題、と思われがちなのですが、サブウーファーと上手く繋がることで倍音が乗ってボーカル帯域の再現性が上がっていくんですよ。ミッドウーファーとトゥイーターが繋がることでも、ボーカル帯域にも好影響が現れます。このことはぜひとも覚えておいていただきたいですね」
さらには、イコライザー調整についてもお訊きした。
「ボーカルを美しく響かせるためには、800Hzあたりの再現性がポイントになるのですが、そのためには、その半分の400Hzあたり、そして800Hzの倍となる1.6kHzあたりをそれぞれ上げ下げしてみてほしいですね。そうすることで、800Hzの聴こえ方が変わってくるはずです。ぜひ試していただきたいですね」
いかがだっただろうか。「ヒップホップ・R&B」を気持ち良く聴くためには、さまざまなチェックポイントが存在していた。なお、今回ご紹介した内容は、“ケンテック”の筬島さん流のやり方、考え方であり、これがすべてではないのだが、なるほどと思えるお話をたくさんお訊きすることができた。ビートが効いた音楽がお好きな方は、大いにご参考にしていただきたい。
さて、次週はガラリと方向性を変え、「クラシック」に向いたユニットと、「クラシック」を心地良く聴くためのチューニング術をご紹介していく予定だ。次回もお読み逃しなきように。