以前に自動車を選びの基準について性能、デザイン、価格、走り、それに経済性あたりだろうかと書いたことがある。
その原稿はボルボ『XC40』についての話であった。結論めいた話をすると、このXC40というクルマはすべての面でバランスの取れたクルマであるという話になった。で、今度は『V60』の話だ。このクルマについては個人的にはまずはデザインではないかと思うわけである。その後ろに性能だったり、走りだったり、機能性あたりがついてくる印象。つまり、このクルマの購入に際して決め手となるのはズバリ、デザインなのだ。
現行ボルボの源流は「コンセプトクーペ」
現行ボルボのデザインコンセプトは『XC90』をその源流としている。そしてさらにその源流を辿ると出てくるのが、「コンセプトクーペ」。2013年のフランクフルトショーに登場したモデルであり、このデザインを担当したのが現在ポールスターのCEOを務めるトーマス・インゲンラスという当時ボルボのデザイン部長を務めた人物だ。
コンセプトクーペには今ボルボのすべてのモデルが持っているグリルデザインであったり、トールハンマー・ランニングライトやダッシュからフロントアクスルに至る寸法であったり、あるいはリアコンビランプのデザイン(セダン系)等々、デザインを決定づけるエレメントのすべてが詰め込まれていた。
一言でスカンジナビアンデザインと片付けることは簡単だが、コンセプトクーペのそれはボルボが『P1800』で作り上げたボルボスタイルをエレメントに取り入れて、さらに伝統と革新を融合させたとても巧みでしかもスカンジナビアを感じさせる独特のデザインランゲージとして確立したユニークなコンセプトでもあった。
暖かさを感じさせるスカンジナビアデザイン
昔からボルボはワゴンのデザインが上手い。それはボルボ『240』でも『740』でも、そしてFWD時代の『850』でも『V70』でも連綿と受け継がれた。だからこそワゴンのボルボというイメージが定着したのだと思う。そしてそれは機能性ゆえのことではなく、やはりデザインの勝利だったと思うわけだ。
改めてV60のデザインを見ると、これはもちろんV90のスケールダウン版といっても過言ではないのだが、コンパクトにまとまり同時に低く精悍なイメージも醸し出していて、スポーティーさも感じされる。もっともトーマス・インゲンラスのスカンジナビアンデザインの解釈は、ボルボ流だと スウェーデン社会の価値観と、そのユニークな環境によって可能になる生き方に根付いたデザインなのだという。
その上で、「我々の仕事は、スカンジナビアのデザインを特別なものにしている精神と自信を理解すること。 次に、それをカーデザインに変換することだ」と話していた。確かに過去に何度も訪れたことがあるスウェーデンは、冬の期間本当に厳しい自然が待ち受ける。その間は僅かな夏の太陽を待ちわびで過ごす忍耐の期間。クルマにそんな我慢強さがあって、無謀なドライバーをもしっかりと受け止めてくれる暖かさというか優しさを感じてしまうのだ。
V60は性能よりもデザインや設えで選ぶクルマ
前置きが非常に長くなったが、そうしたスカンジナビアの精神を包み込んだ優しくもあり力強くもあるV60を身を委ねると、何故かとても温かみを感じる。それはクルマ全体が語り掛けてくるようなイメージなのだが、例えば独特のセンターコンソール上のノブを回すエンジンの始動方法だったり、敢えて本革ではなくコンビシートとしたシート表皮などの個性と表現にスウェーデンを感じてしまうのだ。
そう言えば同じエンジンを搭載しているはずのXC40 B5と比べて、V60 B5のエクゾーストサウンドはずっと力強く、そしてパワフルに感じさせてくれる。重心の低さがスポーティーさを紡ぎ出していることも想像に難くないのだが、そこにスポーツドライビングのためのパドルシフトは備わらず、シフト操作もレバーを左右に振って行うどちらかといえばスポーティーとは言えない操作方法とされている。でも走りは十分にスポーティーであり強烈だ。
XC40シリーズと異なる点は、XC40の場合B5にはAWDの設定しかないのに対し、V60の場合はB4、B5ともにFWDである点。そんなわけだからV60 B5 Rデザインの車重とXC40 B5 Rデザインの重量差は僅か10kgしかなく、パワーウェイトレシオ的にはほぼイコール。ボディサイズは特に前後方向と縦方向で違いがあるが、ホイールベースの長いV60の方がコントロール性が良いと感じるのは当然だと思える。
そんなわけだからV60は性能で選ぶというよりも、デザインや設えで選ぶクルマといえよう。因みにB5はインスクリプションとRデザインが設定されているのに対し、B4にはモメンタムの設定しかない。どっちを選ぶかはあなた次第である。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来43年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。