8月から9月にかけてのおよそ1か月。3台のマツダ『ロードスター』をお借りしてロードスター生活をエンジョイしてみた。
借りた順番は、最初に「ロードスターS Vセレクション」というモデル。次いで2リットルエンジンを搭載する「RF」、そして最後は素のロードスターである。最初のVセレクションと最後の巣のロードスターはMT車。そしてRFはATをお借りした。
いずれのモデルもマイナーチェンジしてデビューした当時に、伊豆スカイラインを舞台にした試乗会で結構攻めた走りをして堪能させていただいたが、乗っている時間が限られるうえに使い勝手などは日常生活を共にしてみないとわからないということで、じっくりと乗せて頂いた。
冒頭から結論じみたことを言ってしまうと、高速ワインディングを楽しむなら、それぞれに特徴があるし、乗り味にも比較的顕著な差を感じることができたのだが、いざ日常的に一般道を交通の流れに従って走行するようなケースでは正直なところ、違いはほぼない。楽をしたければATのRFが一番である。
◆走りは三車三様
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最初のS Vセレクションと素のロードスターの差は、ディファレンシャルにLSDを装備するか否かという差がある(機構的に)。これは箱根の山中を駆け巡ってみると顕著に差があって、端的な言葉を使うとLSD付きは現代車のコーナリングで、路面をグリップする能力が高く、コーナーでの安定感を感じる走りができる。
一方のオープンデフのモデルはもちろん多少飛ばしたところで十分な安定感を持っているのだが、走りの質としては少しクラシカルだ。自分が体験したクルマで言えば、ロータス『エラン・スプリント』とかジェンセン『ヒーレー』といったイギリスの古いオープン2シーターの感覚を持った乗り味とでも言おうか。
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どちらも足のセッティングは全く同じだそうだが、スタビライザーの有無で、コーナリング中にアクセルを踏み込んで加速に移ると、ロールとリアの沈む込みを伴うのがオープンデフの走りで、この辺りがロータス・エランに似ていると感じた部分。LSDとスタビライザーの入ったS Vセレクションだと、俗っぽい言い方をすればビシッと決まると言えばわかり易いか。
RFは今回お借りしたのがATということもあって、もっとオヤジ仕様。とにかく快適だし、まあ、クーペとして使う状況の方が多いかなと思わせた。暑さのせいもあって、オープンにしたケースは少なかった。でも、日常はそうしたケースが多いのではないか?と思う。
◆実用面では走りに特化したスーパーセブンに近い
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ロードスター1台持ちという生活をしている人は気にならないかもしれないが、別に普段の足車を持っているような場合、面倒だなと感じたのがETCの差し替えである。ETCの本体はドライバーズシートもしくはパッセンジャーシート背後にある。だから、ETCをセットするには事前にクルマを止めて、いったん降りて、さらにシートバックレストを倒してETCを差し込むという結構面倒な作業が必要だ。
そして毎度のお話で耳タコかもしれないが、グローブボックスを含むいわゆる物入の類はほぼ無い。そもそも、カップホルダーだって、かなりアクロバティックな動作でしか使うことができない。それを考慮してか、ソロドライブの場合は助手席側のカップホルダーを取り外してセンターコンソール横に取り付けることができるようになっている。二つのカップホルダーが当たり前と思っていたが、実は素のロードスターには一つしか標準装備されない。
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というわけで二人でどこかに出かけようというケースでは、相当にモノの置き場に苦労するということである。そうした点で、ロードスターは例えばケーターハム『スーパーセブン』のような走りに特化したクルマに近い。
勿論リアには結構物が入るトランクが装備されるので、そちらにどうぞということなのだが、走っている途中で鞄に入れたものを取り出したいという場合は、一度止めないとダメ。その点、NBまでのロードスターはシート背後に若干のスペースがあって、特にトップをかけてしまえば結構な荷物でもそこに置けたが、NCからは隔壁が付いてそれはダメ。さらにNDになると完全にスペースがなくなってしまった。
◆素のロードスターが290万円で手に入る幸せ
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ひたすらに走りを追求する分にはそれはそれで正しい方向性だと思う。かつて我々ジャーナリストの大先輩たる小林彰太郎氏が、MGというクルマに対し「心情的スポーツカー」という名文句で表現をしたことがあるが、そろそろロードスターも心情的スポーツカーを作っても良いのではないかと思った。つまり、走りはそこそこにパートナーを隣に乗せてオープンエアモータリングを楽しめるようなゆとりのあるクルマ作りである。
初代NAが誕生したのは確か1989年のこと。あれからもう35年も月日が流れ、クルマの設計開発技術も格段に進化しているはずだから、少しぐらいスペースを取ったインテリアを作ったところで、剛性を確保することはできるのではないかと勝手に推測する。
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それにしてもマツダが作り上げたロードスターというクルマ、走りの欲求も、所有する欲求もとても良い塩梅で満たしてくれるクルマである。そんなクルマが素のロードスターだと289万8500円(試乗したモデルの価格)で手に入る。日本は幸せな国だ。
この素のロードスターの場合、ドアの開閉はリモコンキーで操作する必要があって、これが上級のS Vセレクションになると、ドアハンドルに付く黒いノブを押すことでドアの開閉ができることや、エアコンがオートになるなど豪華さが増す。今回試乗してみて、エアコンはオートである必要は全くないと感じた。だから、素のロードスターで面倒だったのはドアの開閉とETCの抜き差しだけだ。私のチョイスはそこを我慢して素のロードスターを選ぶ…たぶん。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。