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第6章 『ハイレゾ』とは何か その魅力、可能性について考える Part.3
話題の『ハイレゾ』について松居さんに解説していただいている当シリーズ。今回は『ハイレゾ』の音がいい理由について、bitレートの面から分析していただいた。そこに秘められている可能性とは…。じっくりとお読みいただきたい。
ハイレゾでの音の聴こえ方について、前回の続きである。
前回は、時間の刻み方がより細かくなることでアナログに近づく、というハイレゾのアドバンテージについて説明させていただいた。44.1kHzより88.2kHzであることで音は良くなる。これは間違いのないことだ。
しかし、このこと、つまりサンプリングレートが高いということにハイレゾのバリューを見ている向きもあるように感じているのだが、実はそうではない。ハイレゾがハイレゾたるもっとも大きな価値は、bitレートにあるのだ。今回はこのあたりについて掘り下げてみようと思う。
さて、CDの時代のbitレートは、16bit。bitレートとは音のレベル(強弱)を記録するレンジの大きさを表している。16bitでは64,000であるのに対し、ハイレゾにおける24bitになると、16,000,000(250倍)に拡大する。この差はすさまじい。ここにこそハイレゾの価値があるのだ。
ところで、連続した時間を記録できないことがデジタルの弱点だとすれば、ヒスノイズ(雑音)がアナログの弱点である。76cm/秒で回るレコーダーでも45db、ノイズリダクションを使ってもプラス10db。アナログからヒスノイズを取り去ることはとても難しい問題なのだ。今も決定的な解決策が生み出されていない。
録音の現場においては、以下のような対策が取られてきた。小さな音の楽器には、ノイズに埋まらないようにマイクロフォンを追加したり、残響音用のマイクを加えたり、複数のマイクロフォンレベルをミックスする方法で、ノイズフロアーから音を掬い上げていた。
この方式の欠点は、時間軸が整合しないこと。それにより空間をイメージ出来なくなり、臨場感を阻害する。
それをデジタルレコーダーが変えた。
1985年DENONがエリアインバル・フランクフルト放送交響楽団「マーラー」を精密なデジタル録音で聴かせ、世界を驚かせた。
臨場感を重視するため1ポイントマイクのみで収録し、補助マイクを使用する場合は、メインマイクと時間が整合するようにデジタルで遅延し、ミックスするというこだわりを施した。オーケストラが等身大で再現される臨場感にはビックリした。皮肉なことに、時間を切り刻むことで正確な時間軸の整合が可能になったのだ。(後に我々もタイムアライメントを手に入れることになる)
時間軸を操るという武器を得て、これ以後、録音の現場ではデジタル化が進んでいく。それはすなわち、ノイズのない静寂な世界を獲得する、ということも意味していた。デジタルがアナログより勝っている最たる部分は、まさにここにある。
それがハイレゾの登場により、24bitの時代になろうとしている。さらなる静寂、これまでとは比べようもない壮大なる静寂をもたらそうとしているのである。
ところで、ビートルズリマスターボックスはCDとUSBで発売された。CDと比べてUSB盤はサンプリングレートは同じなのだが、bitレートが異なっていて、24bitで記録されている。その差は歴然としていて、クリアを超え、逆に当時使用されていた機材(楽器)のS/Nをそのまま感じることができ、それによりレベルが数段上のリアルをイメージできた。
数十年前の録音現場にいるような気分に浸れたのだ。「オーディオはタイムマシーンに近づいている」。そんな気分にもさせてくれるほど、ビートルズのリマスターボックスのUSB盤の音にはインパクトがあった。それもこれも、bitレートが24bitであることがもたらしていたわけだ。
次回は、ハイレゾの未来について書いてみたいと思っている。