ロックフォード・フォズゲートのトップエンドスピーカー『J5653-S』、通称“J5(ジェイファイブ)”の新たなデモカーが完成したというニュースが、マイカーライフ編集部に飛び込んで来た。
話題の新型サブウーファー『T2』を組み合わせ、プロセッサーにはこちらも注目株、レインボウの『DSP1.8+WiFi Module』を使っているという。これは聴くしかないと、早速取材を申し込み、ロックフォードの正規輸入代理店であるイース・コーポレーションのもとへと急行した。
ところで、ロックフォードの最新スピーカーと言えば、2014年の春に登場した『T4』。同社のラインナップの中で3rdグレードとなるこのスピーカーはすこぶる評判が良く、昨年はこのスピーカーがロックフォード・フリークの間での話題を独占した。しかし、トップエンドモデルはあくまで『J5』だ。今回、このニューデモカーの音を確認することで、改めて『J5』の存在意義を問いたいという思いが沸き上がった。『T4』はもちろん、2ndグレードの『T5』も間違いなく名機であるのだが、それらがある中で『J5』の利点はどこにあるのか…。
というわけで、これから4週にわたり、デモカーのインプレッション・リポートを軸にしながら、今こそ敢えて、『J5』の実力と魅力を全方位検証していこうと思う。
まず今週は、『J5』とはそもそもどのようなスピーカーであるのか、概要をおさらいしていく。最初に主要スペックから振り返ってみる。
本製品は「17cm3wayコンポーネントスピーカーシステム」である。そしてマルチアンプシステムでの使用を想定しパッシブクロスオーバーネットワークは設定されておらず、以下の3ユニットでセットが構成されている。セット価格は34万円(税抜)だ。
○ J5T
・仕様:2cmチタニウムツイーター
・定格入力:60W
・周波数特性:1.3kHz~30kHz
・能率:90dB
○ J5M
・仕様:5.2cmチタニウムミッドレンジ
・定格入力:60W
・周波数特性:220Hz~30kHz
・能率:86dB
○ J5653
・仕様:17cmタンジェンシャル4層ウーファー
・定格入力:60W
・周波数特性:57Hz~10kHz
・能率:88dB
当機の最大の特長は、アメリカンブランドの雄、ロックフォード・フォズゲートの製品でありながら、“メイド・イン・ジャパン”であることだ。90年代初頭にロックフォードを日本に紹介し、以後20年以上にわたって同ブランドの魅力を日本に伝え続けているディストリビューター、“イース・コーポレーション”が企画・開発した製品なのである。
ちなみに、開発に至る経緯は至ってシンプル。「ユーザーの求めに応じるため」だった。開発がスタートした2009年当時、イース・コーポレーションは、同社が主催する年間イベント『ACG』の中で、“サウンドファナティック”というサウンドコンペを実施していた。同コンペには多くのロックフォード・フリークたちもエントリーしていたのだが、彼らの多くはパワーアンプ、サブウーファーにはロックフォードのユニットを使いながらも、フロントスピーカーには同じくアメリカンブランドである、ボストン・アコースティクスの上級機をつけていた。コンペで勝つためには、当時のロックフォードスピーカーでは力及ばず、と考えられていたのである。
その頃のロックフォードのフラッグシップスピーカーは、『T1』。10万円に満たないミドルグレードの製品だ。20万円オーバー、またはそれ以上のスピーカーと同じ土俵で闘うにはビハインドがあることは明らか…。ロックフォード・フリークたちは口々にこう言ったという。「ロックフォードらしさをキープした上で、Hi-Fiに徹したハイエンドスピーカーが出ないものか」と…。
ロックフォードを愛すイース・コーポレーションが、自ら主催しているサウンドコンペでそのような声を聞いて、潔しと思えるはずもなく…。ならば自社で開発しよう、ロックフォード愛を製品を創ることで形にしよう、そのような思いから『J5』開発プロジェクトは立ち上げられたのだ。
こうして『J5』の開発はスタートする。それにあたって目指されたのは「ロックフォードらしさに、究極的なHi-Fi性能を付加する」ことはもちろん、「スペックだけにとどまらない、感性に訴えかける力を持ったスピーカー」であること。“音楽性”を徹底的に追求することが、コンセプトに掲げられたのだ。
その実現を目指す道のりは平坦ではなかった。まず、ロックフォードの名に恥じるものであってはならない。その上で、ただただ音質性能を磨き上げることに徹した。そのために一切の妥協を排し、振動板、磁気回路、フレームなどすべてを一から新設計。試作に試作を重ね、都度データを測定することはもちろん試聴に試聴も重ねて、カットアンドトライを膨大に積み重ねたという。
そうして辿り付いたのが、「チタニウム+漆塗り」という仕上げ方法である。磁気回路からフレームに至るまで、細部に最新技術と工夫が散りばめられているのだが、最大の見どころはこれだ。
正確さやレスポンス、スピードの速さを重んじ、振動板にチタニウムを使うことは比較的早期に決定されていたようだが、究極を求めて仕上げには相当の時間を要したという。一般的に振動板に求められる性質は以下の3つ。「軽さ」「強度」「適度な内部損失」。内部損失とは“響きにくさ”のことであるが、金属系の振動板には、素材特有の響きが乗りがちだと言われることがある。チタニウムですらも、ごく少ないながらもその傾向がないわけではない。それに対しても徹底的に研究し、そうして導き出された答が“漆塗り”仕上げだったのだ。高級ホームオーディオのエンクロージャーに用いられることのある漆を振動板に塗ることが試され、試聴をしてみると…。音の純度が上がり、理想的な特性を得ることができたという。それも、匠と呼ばれる職人による技で塗られたものだけに、その結果は得られた。
こうして『J5』は、理想的なHi-Fiサウンドを実現しながら、“メイド・イン・ジャパン”としてのアイデンティティまでをも身にまとうこととなった。ロックフォードらしさと日本の伝統工芸の融合という、奇跡が起きたのである。
さて、このようなバックボーンを持つ『J5』。ここまで情熱が注がれていて悪いものが出来上がるはずもないが、『T4』や『T5』に慣れた耳で改めて聴いて、『J5』の存在意義をどのように感じることができるのか、興味深い心持ちでニューデモカーに乗り込んだ…。
その回答は次週にお届けする。特に自分好みのハイエンドスピーカーを探している方には、ぜひともお読みいただきたいと思う。乞うご期待。