総合チューニングパーツメーカー最大手のHKSが、自社製作にこだわるサスペンション。スポーツ向けサスは「HIPERMAX MAX IV SP」から「HIPERMAX R」に。これまでのシリーズではなくネーミングから変えたのは大きな進化だからこそだ。
◆専用オイル、スプリング、リテーナーでRだけの特別な性能を実現

HKSの車高調は大きく分けて2種類。これまで、ストリート~ワインディング向けは「HIPERMAX MAX IV GT」ワインディングからサーキット向けは「HIPERMAX MAX IV SP」と名付けられていた。
それが数年前にモデルチェンジして、ストリート~ワインディングモデルは「HIPERMAX S」として進化。その乗り心地の良さや快適性は大きく進化。しかし、スポーツ向けサスキットとしてはHIPERMAX MAX IV SPが継続販売されていた。
そして、まことしやかにフルモデルチェンジがされるのではないかと言われていたが、その予想通りついに新モデルが登場した。それがHIPERMAX Rである。

ネーミングはこれまでのMAXシリーズではなく、Sと同様にシンプルにRと名付けられた。その理由を聞くと「これまでのシリーズに延長ではなく、大幅に進化して生まれ変わったから」だという。メカニズム的にはスポーツ走行にマッチしやすい単筒式構造の車高調であることは同じ。しかし、各部の進化の度合いが凄い。

まず、減衰力発生のポイントとなるダンパーオイルを刷新。粘度指数が高く低温から高温まで安定した減衰力を発生させるオイルに変更。

スプリングも完全モデルチェンジ。高強度鋼材を採用することで張りのある乗り心地とレスポンスの良さを実現。また、バネの鋼材自体も細くなるので線間密着までの距離を取りやすく、ストローク量を確保しやすい。

そして、リテーナースプリングを採用する。通常スプリングはアッパーマウントに固定される。だが、今回のHIPERMAX Rでは、スプリングは中心がピロボールになったリテーナースプリングに固定。アッパーマウントとは別で中心がピロボールになることで、ストローク時にここがフリーで動くようになる。つまりスプリングが真っ直ぐにストロークできるようになる。
実はサスペンションはその構造などによって、スプリングが真っ直ぐに縮んでいないことが多い。扇形にストロークする場合もあり、そうなるとスプリングが斜めに縮められる。斜めに押されたスプリングは本来のレートではなく、それよりも低いレートで縮んでしまい本来の性能を発揮できていない。反発力もスポイルされ、きちんと路面を掴むことができなくなっていることも多いのだ。そのため、かなりのコストアップとなるがRでは全車でリテーナースプリングを採用したのだ。

さらに内部のピストンやシムなどはこれまでの技術を活かし、Dual PVS(デュアルプリロードバルブシステム)で、減衰力を発生させる金属製のシムにあえて負荷を掛けておくことで、減衰力を素早く発生。それでいて段差を超えるような伸縮スピードが速いときにはシムが開いて、サスを動きやすくする。

バンプラバーは新たに製作したものを細かく使い分ける。減衰力調整はその変化量の大きなWRニードル(ワイドレンジ減衰力調整機構)を採用。HKSサスペンションのフルスペックとも言える内容なのだ。
◆フラットライド感は街乗りでこそ気持ち良い
価格は20万円代後半とMAX4SPからほぼ据え置き!?

今回は新型スバル『BRZ』にプロトタイプを装着。箱根ターンパイクで試乗を行った。車両はサスペンション、マフラー以外はほぼノーマル。タイヤは前後ともにADVAN A052 235/40R18を装着している。バネレートはフロント:9kg/mm、リア:10kg/mm。
走り出しから感じるのはしっかり感。ふわっとしているのはなく、シャキッとしている。乗り心地が柔らかいか硬いかと言えば、硬いほうだが不快感はまったくない。高めバネレートで短いストロークになっているが、その中で絶妙に路面を受け止めてくれるので段差に乗っても「ドカン」とハネたりとは無縁。
ステアリングを切った分だけ瞬時に反応して向きを変えていける。そのレスポンスの良さは自分がクルマを操っている感覚に直結し、BRZが小さく感じられるような印象を受ける。

特筆すべきは30~40km/hでの乗り心地。路面の細かな凹凸やウネりを絶妙にサスペンションが吸収し、フラットな乗り心地を実現している。攻め込んだ行った先の安定感が良いのはバネレートが高めのスポーツサスペンションでは、当然といえば当然のこと。しかし、このHIPERMAX Rでは実用領域での乗り心地が快適なのである。
サスペンション開発担当の矢部さんは「乗り心地のフラット感については新採用したスプリングの特性が大きい」という。高強度鋼材を採用したスプリングを、リテーナースプリングでまっすぐに縮める。スプリングとしての基本的な機能を高めることで、これまでにない乗り心地とフラット感を実現。
ぜひ、サーキットでその真の性能を確かめてみたい。その期待感があふれる仕上がりだった。