1981年に登場したブリヂストンのプレミアムタイヤ「REGNO」は、登場する度にその時代の最先端技術を盛り込むことで、ブリヂストンのフラッグシップタイヤとしての立ち位置を揺るぎないものとしてきた。
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これまでは静粛性や乗り心地に重きを置きつつ、走りや燃費、そして摩耗といった性能までをバランス良く保持することが既定路線。実は歴代REGNOのサブネームである“GR”は、GREAT BALANCE(グレートバランス)を意味している。そんなREGNOがおよそ5年ぶりにフルモデルチェンジを行った。新型のサブネームはGR-Xlllとなる。
商品設計基盤技術「ENLITEN(エンライトン)」を搭載、コンフォートタイヤを新次元へ導く
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新生REGNO GR-Xlllの開発はこれまでとはまるで異なる“次のステージへ”移行した。ブリヂストン独自の商品設計基盤技術「ENLITEN(エンライトン)」を搭載したことがその理由だ。タイヤのサイドウォールにもその名が誇らしげに掲げられているENLITENとは一体何か?まずはそこから話を進めていく。
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いまタイヤに求められる性能は様々だ。転がり抵抗、運動性能、さまざまな走行環境への対応、そして摩耗性能や通過騒音対策に加えて、これからはサスティナビリティが求められる。サスティナブルを達成した上で、前述したあらゆる性能を達成しなければ製品として許されない。急激な環境変化やモビリティの多様化に対応しつつ、ユーザーのニーズだけでなく社会価値をも満足しなければならなくなったわけだ。
REGNOの新型となれば、これまで以上にしなやかな乗り心地で、十分な静粛性を達成していて当たり前だと誰もが思うことだろう。もしもそれだけを求めるのであれば、タイヤのトレッド面を分厚くしてしまえば簡単な話。そうすれば溝は深くできるため耐摩耗性は良くなり、さらにウエット性能だって引き上げられるというオマケまで付いてくる。けれども重たくなることで低燃費性能もハンドリングも悪化。資源循環性だって悪くなる。
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前述した新搭載の商品設計基盤技術「ENLITEN」の特徴は「薄く、軽く、円く(まるく)」作ること。これまでのタイヤの作り方を見直し、性能を叶えるために部品をどんどん追加していくのではなく、そぎ落としていくという従来とは全く異なる設計思想により、これまで背反していた性能を両立することが可能となった。
ゴムはナノレベルの分析技術が進み、結果として分子レベルでのゴム配合設計やポリマー設計が可能となった。また、タイヤを薄く作るには接地形状を見極める必要があり、これには接地特性を可視化できるブリヂストンのシミュレーション技術である「ULTIMAT EYE」が役立っている。
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これは以前から取り入れられてきた技術ではあるが、近年は荒い路面や細かい路面に対する接地形状も可視化することが可能になったという。タイヤを薄く作ると変形がいびつになりがちだが、この解析技術によってプライ張力分布を最適化することが可能になったという。さらに、薄くタイヤを仕立てるには生産現場の技術も引き上げなければならなかった。ゴムの量を減らすと丸く作ることが難しくなるのだそうだ。
量産化の課題についても、生産現場の試行錯誤によりクリア。まさにオールブリヂストンで挑んできたのである。結果としてサイズによっても異なるが、従来品よりも概ね10%ほどタイヤが軽量になったという。
新生REGNOの十分な静粛性、それだけでなくドライバーが意のままに操れる操作性も確保
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こうして仕上がったREGNO GR-Xlllを、試乗車として用意されていたBMW『i4』で試す。車両重量およそ2トン(2000kg)というEVである。走り始めてまず感じることは、圧倒的な静けさだった。EVはそもそもクルマ自体が静かであり、結果としてタイヤのノイズが目立ち易いが、その音が低く抑えられているように感じられる。
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静かになったもうひとつの理由は、気柱管共鳴音を低減させていることだ。縦溝と路面との接地面が笛のような形になり、そこからヒューヒューと音が出てしまう。従来型では4本全ての縦溝に繋がるようにデザインされていた「ブランチ型消音器」がGR-XIIIではパターンデザインをより最適化した上でセンターの縦溝2本の隣に与えているのみにとどめている。それでも十分に心地よく、低い音で抑えられている感覚があるので驚きだ。
従来は外側の溝もその消音器が繋がっていたが、今回はあえて採用していない。狙いはハンドリングの向上だ。従来品は微小操舵域の応答に曖昧さがあり、極端にいえば切り込んでいくと一気に応答するようなイメージがあった。
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一方で新型のREGNO GR-Xlllは微小操舵域から切り込み応答まで一定したリニアさがあり、コンフォートタイヤとは思えぬスッキリとした応答性が得られている。これはADAS性能にも寄与し、ドライバーもクルマも狙い通りに動かせるタイヤに仕上がった。
ハンドリングの進化と応答性「REGNO GR-Xlll」は次なるステージへの飛躍
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REGNO GR-Xlllを装着してみると、まずは見た目がこれまでとは異なっていることに気づく。タイヤの形状はショルダーに向かってラウンドしているようになり、やや丸みを帯びたところが、これまでのスクエアな形状だったブリヂストンとは違う感覚だ。
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走り出して感じることは、とにかく軽快さが備わったということ。バネ下が軽くなったことで、足回りに余裕が出たとでも言えば良いだろうか?ひたひたと路面に追従していく感覚がたまらなく心地良いのだ。それでいて突起などに遭遇した時の乗り越しでもガツンとは来ない。しなやかにそれらを吸収して、フラットに駆け抜けてくれるのだ。柔らかいだけでいつまでも揺れるような感覚ではなく、入力を瞬時に受け止め一回で収束するその仕上がりが上質だ。
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そしてハンドリングも良い。切り始めから切り込みまでリニアに動くことで不安な感覚も一切なく、なかなか楽しめる仕上がり。リアの追従性もよく一体感が出てきたところも好感触で、これはなかなか頼りになりそうだ。まさにこれは “THE”グレートバランスといっていいだろう。
サスティナブルでありながら、多様性のあるクルマを受け入れ、さらには環境性能やウエット性能、そして乗り心地やハンドリングまで見事に実現したことは、まさに次のステージへ移行したと言わざるを得ない。まさに全方位的に進化した「REGNO GR-Xlll」の仕上がりは脱帽モノだ。
ブリヂストン REGNO『GR-XⅢ』サイトはこちら橋本洋平│モータージャーナリスト
学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。2019 GAZOO Racing 86/BRZ Race クラブマンシリーズ エキスパートクラスでシリーズチャンピオンを獲得。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。