フェラーリ『12(ドーディチ)チリンドリ スパイダー』をポルトガルで行われた国際試乗会で走らせた。このクルマは昨年クーペで話題となったモデルの“屋根開き版”だ。
クーペが話題となった理由は名前にもなっているV12エンジンで、モーターや過給器のない自然吸気ユニットが搭載されている。同じようなカテゴリーの他社のモデルが続々とモーターを積み始めている中、『812スーパーファスト』や『プロサングエ』に続いて、自然吸気式を採用しているのだから目立つのだ。それはまさにフェラーリ流といったところだろう。

そのオープントップモデルがこのスパイダーで、リトラクタブルハードトップを採用する。ファブリック製のソフトトップでないのはデザイナーの意向で、ハードトップの方がスッキリしてかっこいいと言う判断だそうだ。開閉は約14秒で行われる。45km/h以下であれば走行中も稼働可能。スイッチはセンターコンソールにある。
◆マッサージ機能に温風シートもある「快適フェラーリ」
ではクーペと比べるとどうかだが、開発を同時に行なったと言うだけあり、共通パーツは多い。パワーソースはもちろんのこと、サスペンションのセッティングも同じだ。スパイダーの車重はクーペ+60kgとなるが、ダンパーの減衰圧、バネレートは変わらない。トップの重さは40kg出そうだから、あとの20kgは稼働用モーターや補強パーツと考えられる。

屋根を開けた状態でのキャビンは、思った以上に心地よかった。座面が低く沈み込むように座るので、風の影響は少ない。特に、左右の窓とリアのガラスを上げてしまえば快適そのもの。リアガラスがウインドディフューザーの役目をはたし、後方からの巻き込んだ風をシャットアウトしてくれる。
さらに言えば、見た目にレーシーなバケットシートを取り付けているのだが、実は首元から温かい風を送り出すことができるようになっている。なので、エアコンやシートヒーターと合わせればよほどでない限り冬のオープントップドライブを可能とする。夏にはベンチレーション機能が役立つであろう。

シートに関する操作はセンターディスプレイか助手席目の前の小型モニターで行う。首元の風は三段階で調整可能。さらに言えば、このシートにはマッサージ機能が組み込まれている。マッサージは強さ調整だけでなくシートの部位を選択できる徹底ぶり。プロサングエでも驚いたが、このクルマはよりスポーティなスタイリングだけに衝撃的である。
◆12気筒サウンドが間近に感じられる
そんな快適なキャビンだが、ここに座る醍醐味はやはりこの12気筒エンジンのエキゾーストサウンドを間近で聴けることだろう。屋根を開けていればダイレクトにそれが耳に届く。この12気筒自然吸気ならではの乾いた甲高い音はもはや希少だ。

数年前にジャガーがFタイプのV8サウンドを英国の国立図書館に保存したニュースがあったが、この12気筒エンジン音もまたイタリアの図書館や博物館、もしくは美術館に保存すべきと思う。
と言うのが、ポルトガルでステアリングを握ったフェラーリ 12チリンドリ スパイダーの概要。クーペとはまた一味違うスパイダーならではの魅力と価値を感じたテストドライブであった。

九島辰也|モータージャーナリスト
外資系広告会社から転身、自動車雑誌業界へ。「Car EX(世界文化社 刊)」副編集長、「アメリカンSUV(エイ出版社 刊)」編集長などを経験しフリーランスへ。その後メンズ誌「LEON(主婦と生活社 刊)」副編集長なども経験する。現在はモータージャーナリスト活動を中心に、ファッション、旅、サーフィンといった分野のコラムなどを執筆。また、クリエイティブプロデューサーとしても様々な商品にも関わっている。趣味はサーフィンとゴルフの“サーフ&ターフ”。東京・自由が丘出身。