高機能、高性能を標榜し、時代の最先端を行くBEVとして早くから注目を集め、今やBEVの世界では押しも押されもせぬ存在のテスラ。
アーリーアダプターのユーザーが飛びついて購入したことや、当時は代表であるイーロン・マスク氏が、まるでアップルのスティーブ・ジョブス氏のように神格化されたこともあって、そのブランド自体も半ば神格化されて、テスラ=高級BEV的なイメージがすっかり定着した。
もちろん、今もテスラは高級BEVの最右翼であることには変わりはないのだが、このところ攻勢をかけてテスラ一択の時代ではないことを痛感させるメーカーが出現した。それがBYDである。
当初のモデルはコンパクトSUVで、テスラとは与しないカテゴリーのモデルが日本市場には投入されていたが、『シール』と言うモデルを出したあたりから、公然とテスラの牙城に迫る高機能、高性能、それに高品質を提供し始めた。そして今回の『シーライオン7』はそのシールの言わばSUV版として投入されたモデルである。
◆車名の由来と、性能への自信

「シーライオン7」という名称だから、てっきり3列7人乗りモデルという意味だと思っていた。ところが現実は2列5人乗り。では最後の「7」は?ということなのだが、何でも7ナノメートルの7であるという。この7ナノメートル、聞き慣れないしそもそも門外漢だったからわからなかったのだが、車載用の高性能チップのことを指すそうで、一昨年あたりに中国のファーウェイがスマホのチップとして採用し、全世界に衝撃を与えたほどの高性能半導体らしい。そいつをBYDが車載チップとして採用し、巨大なディスプレイのユーザーインターフェイスが益々速く使い易くなっているのだそうだ。
この辺りからして高機能、高性能であることが理解できると思う。そしてボディサイズはと言うと、全長4830×全幅1925×全高1620mm。全高を除けばテスラ『モデルX』より少し小ぶりと言ったサイズ感である。基本的な性能はシールのそれに準じるものだから、シールを経験したことのある人なら、その性能がわかると思う。

最近のBEVは初期に持て囃されたBEVとは違って、できるだけICEの走りに近づけている印象が強く、鬼面人を驚かせるような爆発的な加速感を標榜はしていない。初期のテスラ『モデルS』ではそのあたりがやたらと宣伝されていた。もちろんBYDシーライオン7も、アクセルを強く踏み込めばやはりかなりの瞬発力を見せるのだが、むしろ扱い易さの方へ性能を振っている印象が強い。
デザインについては好みもあると思うが、個人的には素晴らしくすっきりとまとまり、センスも良くカッコイイと素直に思える。SUVと言うよりもクーペライクの印象が強く、リアに行くに従いルーフはなだらかに下降線を辿っている。デザインを主導したのは同社のチーフデザイナー、ヴォルフガング・エッガー。あの、ヴァルター・デ・シルバの後を受けて、アウディのチーフデザイナーとなり、その後ランボルギーニのデザインも担当した。個人的に彼の秀作と思えるのは、アルファロメオ『8Cコンペティツィオーネ』である。
◆もはや高級BEVはテスラ一択ではない

日本に導入されるシーライオン7は、RWDもしくはAWDの2種。例によって今回は試乗会であり、試乗時間も限られていたので触り程度の試乗しかできていない。AWDの方はフロントに217ps/310Nmのモーター、リアに308ps/380Nmのモーターを搭載する。
因みにリアモーターはRWDと共用である。つまりフロントモーター分AWDの方がパワフルと言うことになるし、実際加速性能なども数値の上ではAWDの方が上なのだが、現実に乗ってみると、その差は日常使用ではまず感じることがない。つまり、ドカンと踏み込まないとその差がわからないということである。
そして車重もAWDの方が110kg重い2340kg。なんとなくこれでチャラになっている印象すら受ける。そしてやはりシール同様、チョイ乗りする限りではRWDの方がシャキシャキとしたハンドリングで、動きが俊敏である。

この2台お値段はRWDが495万円、AWDは572万円。しかもこの価格はいわゆるフル装備状態の価格で、オプションの設定は無しである。とにかくありとあらゆる装備が標準装備されている。この状態で、しかもこの性能であるから、BYDのブランド力がジワリと上がり、もはや高級BEVはテスラ一択ではないことを痛感させられる。
余談ながら航続距離はRWDで590km、AWDだと540km。ほぼガソリン車並みの航続距離を持つ。だから、充電インフラさえ整えば、BEVになびく人も多くなるだろう。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。