クルマの中で良い音を聴きたいと考えてそのために何をすべきかを調べてみると、専門用語に多々出くわす。そしてその意味が分からずに興味が半減…。そんな思いをしたことはないだろうか。当連載ではそのような体験をする人を少しでも減らそうと、用語解説を行っている。
◆「デッドニング」とは、「音を響きにくくする作業」!
今回は、「デッドニング」という言葉について解説していく。このワードは、スピーカー交換をしようと思ったときや車内を静かにしたいと思ったときに、見たり聞いたりするはずだ。
まずは、語源から説明していこう。これは、英語の動詞「deaden(消す・弱める)」に基づく名詞だ。ちなみに音響の世界では、音が響きにくい状態のことを「デッド」と称することがあり、逆に音が響きやすい状態のことは「ライブ」という言葉にて表現される。
で、「デットニング」とは、クルマのドア内部を「響きにくくする作業」のことを言い、さらにはフロアや天井を「響きにくくする作業」のことも指す。
ちなみに近年はエンジン音やマフラー音が静かになったこともあり、ロードノイズや雨音を「うるさい」と感じるドライバーが増えてきた。で、床や天井を「音が響きにくい状態にすること」へのニーズが高まっている。なおそのようにする作業のことは「車内静音化」と称されることも多いのだが、「デッドニング」と呼ばれることも少なくない。
ところで、ドアにて行われる「デッドニング」では、音を響きにくくする以外の作業も行われる。なぜならば実は「デッドニング」は、音を響きにくくするだけのものではないのだ。むしろ「クルマのドア内部の音響的なコンディションを整えるための作業」という色彩が濃い。実際、クルマのドアは音響的なコンディションが良くない。「デッドニング」はそれを改善するためのものなのだ。
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◆クルマのドアは、スピーカーボックスとしては設計されていない…
さて、クルマのドアの音響的なコンディションが良くないのはなぜなのかというと…。答は単純明快だ。「クルマのドアはスピーカーとして設計されてはいないから」だ。
ホームオーディオのスピーカーをイメージしてほしい。それは、スピーカーユニットが箱に取り付けられた状態にて完成品となっている。つまり箱も含めてスピーカーであり、その箱にもメーカーの英知が多々注入されている。対してカー用のスピーカーは、スピーカーユニットだけで売られている。そしてドアスピーカーについてはドアがスピーカーボックスの役割を果たす。しかしドアはスピーカーとしては設計されていないがゆえに、スピーカーボックスとしてのポテンシャルが実に低い。
クルマのドアの音響的な不足ポイントは、主には3つある。まず1つ目は「奥行きが短いこと」だ。スピーカーユニットは裏側からも音を発する。振動板が動いて空気を震わせるという営みは、表側でも裏側でも成されているからだ。で、スピーカーボックスの奥行きが短いと、その裏側の音エネルギーがスピーカーにモロに跳ね返り、振動板の動きにストレスを与えてしまうのだ。
ドアの音響的な不足ポイントの2つ目は、「鉄板が共振しやすいこと」だ。クルマのドアは鉄でできているとはいえ、その鉄は至って薄い。なのでスピーカーの裏側から発せられる音エネルギーによりいとも簡単に共振し、異音を発する。そしてその異音は、表側から放たれる音を濁してしまう。
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◆スピーカーの裏側から発せられる音が表側に回り込むと…
そしてドアの音響的な不足ポイントの3つ目は、「裏側の音が表側に回り込みやすいこと」だ。スピーカーボックスは実は、「裏側の音を閉じ込める」という役目を担っている。裏側の音は耳で聴く分には表側と同じ音なのだが、音波としては真逆の関係にある。なぜなら表側と裏側とでは振動板の動きが真逆だからだ。表側から見て振動板が前に出ているときそれを裏側から見ると、振動板は引っ込んだ状態となっている。なので音波としても裏返った状態となる。
で、耳で聴く分には同じ音でも音波としては真逆の関係にある音同士が同一空間で交わると、「キャンセリング」と呼ばれる現象が引き起こされる。つまり、お互いがお互いを打ち消し合ってしまうのだ。なのでスピーカーボックスは裏側の音を閉じ込めて、「キャンセリング」が起きないようにしているわけだ。
しかしクルマのドアは、内側の鉄板にサービスホールと呼ばれる穴が開いている場合が多く、そこからスピーカーの裏側から発せられる音がドアパネル側まで回り込む。そして少なからずドアパネルを介して表側に響く。結果、ある程度の「キャンセリング」がどうしても発生してしまうのだ。
なので「デッドニング」では、これらへの対処が目指される。スピーカーの裏側から放たれる音エネルギーを吸収・拡散して減衰させたり、鉄板を共振しにくくしたり、裏側の音が表側に回り込みにくくしたりして、ドア内部の音響的なコンディションを上げていくのだ。
今回は以上だ。次回以降もカーオーディオにて使われる専門用語の意味を解説していく。乞うご期待。