◆恋愛相手として受け入れることができるか
今回のワンポイント確認は、「見栄をはりにくいパサートは、恋愛相手として受け入れることができるか」である。国産車はお見合い、輸入車は恋愛。そう言われていたけれど、マッチングアプリの時代に見合いも恋愛もないだろうと言われそうだ。
ただ、スペックを見比べて選びがちな国産車と、心を奪われるように恋をして、このクルマに乗りたいと思わせがちな輸入車には、まだこの構図はあると思う。
輸入車ではあるけれど、フォルクスワーゲンのクルマは、どれもお見合いに近い立ち位置である。誠実でシンプルで、コストパフォーマンスが(輸入車にしては)いい。一瞬で恋に落ちる相手というよりは、いっしょに過ごしていくうちにクルマのよさがしみじみ伝わってくるタイプだ。

そんななか、フラッグシップの『パサート』の新型である。日本市場には、ワゴンタイプだけが導入された(グローバルでも新型はワゴンのみ)。日本の個人乗用車市場にもはやセダンの価値なしと思う私は、いいぞいいぞ!と、ひとり盛り上がっている。
全幅の1850mmは、1800mm超えのクルマがひしめく日本ではもう驚くほどの数字ではなく、真正面から見るとそのシャープな顔立ちから、引き締まっているようにすら思える。ただ、ナナメから後ろへと目をやると、そこは全長4915mmとやはり長さが際立つ。ワゴンという車体後半まで続くボリューム感もあって、大きさの貫禄は十分だ。
◆一瞬でわかるストレスのない動き

この全長に少し圧倒されるものの、走り始めると印象は戸惑うほど変わる。これだけ大柄なボディなのに、軽く街中を走っただけでわかる俊敏さがあるのだ。理由はハンドルに対する反応のよさ、クイックさだ。
すっとハンドルをきると、予想以上にクルマが向きを変えていく。住宅街の四つ角をふっと曲がるだけで、くいっと曲がっていくのだ。この一瞬でわかるストレスのない動きは、なんだか気持ちを明るくさせてくれる。
ボディの大きなクルマに乗りこむと、往々にしてクルマに乗せられている感が高まるものだが、このハンドルの操作性に加えて、ブレーキペダルの跳ね返り具合が「ドライバーが自分の意思で操作中」という事実を突き付けてくる。

ブレーキを踏むと強く押し上げてもどしてくる感があり、しっかり止まるためにはさらに意志を持って踏みこんでいかなければならないのだ、物理的にも気持ち的にも。この感覚は、クルマと対話をしているようでとても好感が持てる。
エンジンは、ターボとモーターのアシストにより、1.5リットルとは思えないほどの滑らかさとパワフルさで車体を突き動かしていく。そしてなにより、ボディ剛性のよさ。つまり密度の高い車内に、エンジン音や振動がほとんど入ってこないのである。落ち着いた移動空間は、なんとも心地いい。
荷物スペースは、いわゆる「敷地面積」が広く、荷物を平置きにどんどんつめ込める。重ねて積み込むパズルをする負担もなく、こういうところでも懐の深さを感じずにはいられない。

◆気づいたらほのかに恋に落ちている…
今回のワンポイント確認の「見栄をはりにくいパサートは、恋愛相手として受け入れることができるか」は、超優良物件なお見合い相手であり、でも、気づいたらほのかに恋に落ちているという、恋愛の最高なパターンになる相手だと思う。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★
岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「未来のクルマができるまで 世界初、水素で走る燃料電池自動車 MIRAI」「ハチ公物語」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。2024年6月に最新刊「こちら、沖縄美ら海水族館 動物健康管理室。」を上梓(すべて講談社)。