東京オートサロン2024で多くのユーザーの関心を集め「東京国際カスタムカーコンテスト 2024ドレスアップ・SUV 部門 最優秀賞」を受賞したスバル『レガシィ アウトバック BOOST GEARパッケージ コンセプト』。メーカー謹製のカスタムカーで次世代をにらんだ先進性に注目した。
◆ギリギリを攻める! 新時代のメーカーカスタムを目指す“BOOST GEAR”
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今回の東京オートサロン2024ではトーヨータイヤブースに展示され、見事に最優秀賞を受賞したレガシィ アウトバック BOOST GEARパッケージ コンセプト。前作となるクロストレックベースの車両から市販化をにらんだパーツ開発が加速し、スバルが力を入れるアフターパーツブランド「BOOST GEAR(ブーストギア)」を大きくアピールする車両となった。
ブーストギアのパーツを纏ったクルマの特徴は、メーカー保証や安心安全といったカスタマイズ初心者でも手を出しやすいハードルの低さ。クルマメーカーのカタログモデルを買う感覚で、スバルのディーラーで買うことができるカスマイズブランドなのが、新時代を感じさせるひとつの要因になっているだろう。
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そんなブーストギアとしてのブランドイメージを体現するべく、日本国内を走るオーバーランディングをイメージしたのががこのクルマ。主に山を中心としたアウトドアフィールドで活躍する、遊び度全開のスタイル&装備を前提とする。
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MTBでレースに出かけるシーンを想定して必要な装備の積載し、さらに現地で使いやすい実践的な仕様などを徹底して追求したコンセプトカーとなった。そこでデザインから企画までを担当する、アクセサリー企画部クリエイティブディレクターの須崎兼則さん(自らも国内のMTB競技にも参戦するレーサーでもある)にカスタマイズの見どころをうかがった。
◆今後のカスタムは3Dプリンター次第? 自在性を求めた新たな試みをスタート
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「今回新たに投入したのはDMMとの協業で実現した3Dプリンターを使ったパーツ製作です。まずはグリル、フェンダーで実際に3Dプリンターを使ったパーツを投入しました。3Dプリンターを使うことで多品種少量生産が可能になり、パーツデザインのバリエーションが増やせるのが魅力です」
「将来的にはデータでの出荷も視野に入れるため在庫不要/金型不要/運搬によるCO2削減にもつながり、環境にも配慮したカスタマイズとしてブーストギアのパーツ生産で積極的に取り入れていく予定です」(須崎さん)
3Dプリンターで作ることで、デザインの自由度も大きくアップすることもポイント。少し専門的な話をすると、これまでは金型から抜くこと(離型)を前提とした形状しかデザインできないため、裏側が抜けているような形状は難しかった。しかし3Dプリンターは立体的に積層して素材を積み上げていく製造過程なので、どんな形状でも再現可能。“デザイナーの真価が問われる製造手法”ともいわれている。
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実際にこのクルマのグリルは3Dプリンターで作られたもので、複雑なフィン形状は裏側が抜けている立体構造だ。また両サイドの縦に走るバー形状の立体構造は、裏側のターコイズブルーで処理された部分がトンネル状に貫通しているのが見て取れる。
従来は別体パーツで作り組み立てる工程が必要だった構造だが、3Dプリンターならここまでを一気に作り上げられる。今後は着色などの工程も3Dプリンターで製造できることが想定され、多彩なパーツのデザインが可能になりそうだ。
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そんなグリルのデザインはセンター部にU形状パーツを込めた印象的なものだが、これは乗用4WDの礎を築いた初代スバル『レオーネ』のデザインをオマージュ。ボンネットにもラインをつなげてグリルからボンネットへの一体感も演出した。
さらにフードフードモールは、流行りの角形マーカーを埋め込んだ印象的なデザイン。オフロード系のカスタマイズで流行しているグリルマーカーや補助灯を取り入れたタフないん。流行の小型マーカーをビルトインするスタイルは、オートサロンなどの来場者からも評判が高く、多くの質問が集まったパーツでもあったという。
◆3Dプリンターだからこそ実現したダイナミックなパーツデザイン
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外装デザインでもうひとつの注目ポイントはオーバーフェンダーだろう。かなり凝った造形を込めたオーバーフェンダーには、デザインや構造に新しい取組みがいくつも込められた。
「オーバーフェンターというと真っ黒で分厚い形状というのが定番でしたが、そのイメージを払拭したかったんです。しかしボリュームは出したくないので、解決策としてフローティング構造にしました」
「また面発光のLEDをビルトインすることで、車幅のワイド感をイメージを持たせています。これもフローティング構造にしたことによる“意味のあるデザイン”のひとつです」(須崎さん)
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光るオーバーフェンダーはまず見かけないと思ったのだが、さらにこのオーバーフェンダーには他にも仕掛けが込められた。まずはフェンダー幅を細かく設定する想定が込められていること。
従来はホイールをフェンダーに合わせてインセットをセレクトしてツライチにするのが定番だが、このフェンダーの考え方は逆。ホイールに合わせてフェンダーの出幅をセレクトしてピタリのサイズを作るという。近い将来にも実現する可能性がありそうだ。
さらにフェンダーアーチの上部を見ると、小さく切り欠いたような部分に小さなパーツが取り付けられている。実はこの部分も3Dプリンターで作られたもの。粉末状の素材を噴射して固める新しい3Dプリントの手法で、従来のように積層した際の縞模様が出ないのが特徴。実際にこのパーツは仕上げの表面処理なしで、3Dプリンターで作ったままの素地で装着されている。
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フェンダーの頂点は交換可能な設計とすることで、スマホのホルダー(下部に音響増幅の空洞を設ける)やダイヤルキー付きのカギホルダー、タオルなどのハンガー、マグネットと各輪にはそれぞれ別用途のパーツを用いてバリエーションの豊かさをアピール。ベースデータがあれば、+アルファの要素はユーザーが自分でセレクトしたり、データの組み合わせで自分だけのパーツを生み出すことも可能になるのだ。
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前作となる『クロストレックBOOST GEARコンセプト』でも投入されたボディサイドへのプロテクター。ボディサイドを有効利用する新しいアイデアとして、注目のカスタマイズパーツだ。前作では開閉して小さなテーブル状になるものだったが、今回はより現実的な形状になった。
周囲に凹凸を設けてテンションコードをセットできる構造で、ここにサングラスやタオルなど、アウトドアで地面に置きたくないアイテムを引っかけておける。またプロテクターの表面を滑らかな凹形状としているので、中央部分はボディに近くなるためマグネットも貼り付く。ボディには直接マグネットを吸着させたくない場合でもこれなら安心して利用できそうだ。
◆インパクト抜群のホワイトレター! OPEN COUNTRY装着の足元にも注目
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さらに想定される利用シーンに合わせたパーツ選びもセンス抜群だ。足もとにはトーヨータイヤ「OPEN COUNTRY A/TIII」(235/60R18)をチョイスし、純正オプションで設定されているホイールのバルブ部分に、ブーストギアのイメージカラーであるターコイズをペイントする。
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またルーフには横方向にハッチを持つ、レイトナー製のルーフボックスを設置。さらにアウトドアギアを大量移送する場合には、頼りになるトレーラーには日本で使うのに程よいサイズ感のブラストトレイル製トレーラーをカスタマイズしてけん引する。
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自動車メーカー製のアフターパーツブランドとして、安心感やメーカー保証などをメリットとしたスバル「ブーストギア」。ユーザーが同じクルマに乗るのではなく、自分の好きな色や形状が選べることがクルマの醍醐味のひとつであるとして、カスタマイズを推し進めるスバルの新しいカスタマイズブランドだ。
新たに3Dプリンターによるパーツ制作なども開発が進み、従来のカスタマイズパーツの考え方さえも変える構想には驚くばかり。次は一体どのようなクルマで我々を楽しませてくれるのだろうか。
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土田康弘|ライター
デジタル音声に関わるエンジニアを経験した後に出版社の編集者に転職。バイク雑誌や4WD雑誌の編集部で勤務。独立後はカーオーディオ、クルマ、腕時計、モノ系、インテリア、アウトドア関連などのライティングを手がけ、カーオーディオ雑誌の編集長も請負。現在もカーオーディオをはじめとしたライティング中心に活動中。