クラッチはエンジンの回転をタイヤに伝えるための要となる装置。マニュアルトランスミッション車ではこのクラッチ操作が発進からシフトチェンジ、シフトダウンなどまで幅広く関わってくる。
そしてチューニングすればするほど、扱いにくくなることもあるのがクラッチの特徴。では、どんな場面でどんなクラッチを選べば扱いやすく、走りを楽しめるのだろうか。
◆クラッチの素材でフィーリングが大きく変わる
純正クラッチはその多くがシングルと呼ばれるもので、オーガニック材と呼ばれる繊維や樹脂などによってできている。オーガニック材は、以前はアスベストが使われていた素材。その後、アスベストが使われなくなりノンアスベスト材やオーガニック材と呼ばれるようになっている。その特徴は扱いやすさ。半クラッチの領域が大きく、なめらかな発進がしやすい。
ノーマルの車で使っている分にはまったく問題がない。使い方にもよるが5万kmから10万kmほどの耐久性があるのが一般的。だが、パワーアップしていくと、ノーマルクラッチでは受け止められなくなってしまうことがある。
エンジンチューンによってトルクが増えると、クラッチとフライホイールの摩擦力を超える力が出てしまい、クラッチが滑るようになってしまうことがある。それは発進だけではなく、例えば加速中にエンジン回転数だけが上がってしまって、加速しなくなってしまうようなことが起きる。筆者もZC33Sスズキ『スイフトスポーツ』でタービン交換をした際、高速道路で90km/h位で走行中、ギアは6速でそこからアクセルを踏み込むとターボによって強大なトルクが発生し、クラッチが滑ってしまいエンジン回転数だけが上がるという症状が起こったことがある。
◆クラッチ滑りの対策は素材変更以外にも方法がある!?
そこで主な対策は2つ、1つはクラッチディスクの材質を変更すること。もうひとつはシングルクラッチからツインクラッチやトリプルクラッチに変更することである。
材質を変更するのは、オーガニック材からもっと摩擦の大きいオーガニック材にしたり、メタル材と呼ばれる金属成分の多い材質に変更するなどの手法がある。メタルクラッチとも呼ばれる金属成分の多い摩材は、伝達性能に優れるが半クラッチの領域が狭く、発進がしにくいと言われてきた。実際、つながり始めから完全につながってしまうまでの領域が狭く、完全につながってしまったときには、強大な摩擦力でしっかりと動力を伝達してくれるので、そこでドカンとつながりやすい。乗りにくいと言われてしまうこともあった。
もうひとつは、もともとクラッチディスクとフライホイールの1カ所でしか摩擦が生じていなかったものを、クラッチディスクを2枚にし、その間にプレートを入れることで2面で摩擦させるツインクラッチ。さらにもう1枚増やして3面で摩擦させる。トリプルクラッチなどにする方法がある。
しかし、シングルクラッチに比べて伝達性能が高い分、さらに半クラッチ領域は狭くなり、そこにメタルディスク材を組み合わせるとなかなかレーシーなクラッチになってしまうことが多かった。メタルトリプルとなるとそうとうシビアなクラッチとアクセル操作が求められることがあった。
だが、最近はクラッチディスクや摩擦材などの進化と設計の変更などもあり、昔のメタルクラッチとは大きく異なる性能を持つ。オーガニック材と同等とまでは言えないが、これまでのメタルクラッチに比べれば、はるかに扱いやすい半クラッチ領域を持ったメタルクラッチが増えている。
そんな街乗りの扱いやすさから、伝達制度の高さまで幅広く欲しいというユーザーからの声に応えて生まれたのがカーボンクラッチだ。カーボンディスクはメタル材に比べて柔らかく、半クラッチ領域があるが、熱に強く摩擦にも強いので高い伝達性能を持つ。半クラッチ領域の広さと伝達性能の高さを両立しているクラッチとして人気が高い。
また、熱を持つほど伝達性能が上がる特性があるので、サーキット走行などで熱を持つとより滑りにくくなるという。カーボンディスク自体が軽いので慣性が少なく、素早いシフトチェンジにも向いているというメリットも大きい。
だが、カーボン材だけあって、価格が高くなかなか気軽に導入とは言えないが、それでも街乗りからサーキットまで楽しみたいというユーザーには高い支持を受けている。