SPAと呼ばれるプラットフォームを用いた2代目の『XC90』が登場したのは、日本市場では2016年のことだから、今回の変更はほぼ10年ぶりということだ。
とはいえ、大幅な変更を受けたわけではなく、もっぱらコスメティック・チェンジの様相が強い。ボルボらしいと思うのは、そうは言ってもきっちりとやるべきことはやって、商品力を高めているところ。今回試乗したPHEVモデル「XC90 ウルトラT8 AWD PHEV」では、目に見えない部分で、側突に対してバッテリーを保護する目的で、サイドインパクトに対する補強を加えるなどして、安全性能を高めている。
この安全性能に関して言えば、やはりボルボらしいのは、1列目から3列目まですべて安全性能に変わりはないという点を、メーカーがアナウンスしているところ。やはり安全性能を重視するボルボならではと言えよう。
◆グリル以外の変化はわずか

コスメ・チェンジのハイライトは、やはりグリルだろう。ボルボ伝統の丸く囲んだ“VOLVO”の文字を、斜めのラインで繋いだ俗に「アイアンマーク」と呼ばれるラインで斜めの格子グリルを交差させるような、独特なグリルに変わった。元々このアイアンマークは、生産された当初に使われていたスウェーデン鋼の強さを象徴するようなエンブレムだったということだが、1980年代に初めてボルボを訪れた時に聞いた話では、今はニッポンスチール製が多く使われていると聞いて、少し興ざめしたものだが、果たして今はどうなのだろう?
それはともかく、細かいところがだいぶ変更されたようだが、グリルを除けばその差はほとんどわからないレベルである。一方のインテリアはセンターディスプレイが11.2インチに大型化されたほか、見た目でもピクセル密度がアップして、より奇麗な画面となっているそうだ。インテリアの変化もこれ以外ではカップホルダーが大型化して、ダッシュボード寄りのところに小物入れが追加されたり、アンビエントライトの位置が従来と変わったりなど、変更は小さい。見た目ではベンチレーターの吹き出し口のバーが縦型に代わったというレベルで、やはり大変わりではない。

元々PHEVを念頭に置いて開発されたプラットフォーム「SPA」(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャ)も、誕生からすでに10年が経過して本当なら少しは手直しをしてもらいたいところだが、現実には手が入っておらず、すでに「SPA2」と呼ばれる新しいものの開発が進んでいるようで、次期型XC90にはそのSPA2が使われるという。
ただ、バッテリー容量についてはT8が誕生した時よりも大型化され、現在は18.8kwh。デビュー当時はターボエンジンとスーパーチャージャーを組み合わせていたが、今はスーパーチャージャーをやめ、代わりにモーター出力を向上させ、eブーストを追加している。電動での可能走行距離は73kmとされている。
◆クルマがでしゃばることはまずない

さて、そんなXC90に試乗した。実はこれに乗るのは本当に久しぶりで、T8はリチャージと言う名がついて登場した2021年以来、4年ぶりだ。当時もボルボについては「でしゃばらず、邪魔をせず、ドライバーが赴くままにドライバーが意図するままに走る。その動きも振る舞いも至って上質」と書いているが、このイメージは今も全く変わらない。どちらかと言えば、決して走りの質をとことん追求するようなメーカーではないから、クルマがでしゃばることはまずない。
実は乗り出してすぐにちょっとフラット感に欠けるな…という思いを強くしたのだが、試乗を終えてマーケティングの人と話をすると、まさにおろしたてのクルマで、まだ初期ランニングインが終わっていないから、もう少し乗り込むと落ち着く…という回答を得たので、改めて試乗してみようと思う。このあたりが味見試乗の辛いところ。

でしゃばったクルマではないが、さすがに22インチのタイヤ/ホイールは個人的には少しtoo muchじゃないか(ボルボとしては)と思う。それが原因かどうかは不明だが、路面変化にとてもナーバスで、特に今回売りにしていたはずの静粛性に関しても、路面が変わると時として大きなボリュームのノイズが侵入していた。
ノイズキャンセリング機構が付いているそうだが、それをコントロールするスイッチなどはないため、キャンセリング有る無しの差は不明であった。
また、帰路は「チャージモードを使ってくれ」とのご託宣だったが、これを使うとエンジンノイズが大きめに室内に侵入することも判明。だから、流石にエンジンの古さを感じてしまった。このエンジン、2015年に登場したドライブeと呼ばれた時代のもののはずで、恐らくそれ以降本格的なICE開発が行われていないはずだから、やはり古さは否めない。因みにMHEVモデルの方はミラーサイクル化されていて、燃費も向上しているそうだ。
◆大きな進化ではないけれど

素晴らしく良いと感じたのはワンペダルモード。今回から装備されたはずだが、まずクリープをキャンセルし、シフトをDから1段手前に引いてBモードにすると作動する。これも、例えば高速走行時などはでしゃばらず、邪魔をしないが、低速で走行中にアクセルペダルを離すと、きちっと停止まで導いてくれる。しかもブレーキにかかり方が実にプログレッシブで、徐々に強くなっていくから、多くのワンペダルモードと違っていきなりガツンとブレーキがかかることがない。
今回のXC90、大きな進化ではないけれど、実に堅実に明らかに良くなっていることをじわじわと感じさせるようなクルマだった。だから、長く付き合える…多分。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。