VW『ゴルフ』がフェイスリフトを受けて、ゴルフ8.5と呼ばれる世代に進化した。ニューモデルのメインテーマは、新たなインフォテイメントの導入。メカニカルな変化はあまりない。
今回試乗したのは、「アクティブ」と呼ばれる日本国内では、いわばベーシックなモデル。先代では3気筒1リットルエンジンを搭載していたのに対し、今回は上級モデル同様4気筒の1.5リットルに格上げされた。
また、今回はヴァリアントだから異なるかもしれないが、少なくともハッチバックではリアサスペンションの形状を上級とは分けていて、従来1リットルモデルではトレーリングアームが使われていたが、今回は上級同様4リンクにやはり格上げされている。この辺りは、ベースモデルの購入を考えているユーザーには朗報かもしれない。そして、恐らくはメカニカルな変更はこれだけだと思われた。

新たに手を入れられたコスメティックチェンジとしては、バンパーやヘッドライトなどを変えたという。よくよく見ると8世代目でかなり涙目風に下に垂れ下がっていたヘッドライトが、少し角ばって凛々しくなっているのがわかるが、まあ、そう大きな違いではなく、通りすがりでその差に気付く人はよほどのゴルフ通である。
また、フロントグリルにでんと構えるVWのエンブレムが、今回からイルミネーション付きとなった。これは人に言われて、改めて降りてみると「なるほど」、となるレベルのもので、要はクリスマスになると家の外を電飾で飾り付けても、中の住人には見えないのと同じようなもんだ。
◆やはり4気筒はいい

それはさておき、やはり4気筒はいい。以前の3気筒も静粛性に優れ、特に市街地での加速感などは、4気筒に見劣りしないものを持っていたが、やはり高回転まで回していった時のフィールは、俄然4気筒が上。特にこの「eTSI」と呼ばれるVWの4気筒ユニットは、その回転フィールが極めて優れ、なめらかで気持ちが良い。乗り味にそれが表れていて、市街地走行はまさに真円の出たタイヤが、まるで滑るように回って極めて無抵抗に転がっていく印象の乗り心地である。それがやはり滑るように回るエンジンで後押しをしていると(実際には引っ張っている)言う印象であるから、乗り味のスムーズさは抜群である。
タイヤはアクティブのみ16インチが装着される。先代ではグッドイヤーのエフィシェント・グリップが装着されていたが、今回はネクセン NブルーSと言うタイヤに変わった。ネクセンは韓国製で、韓国内ではハンコック、クムホに次ぐシェア3位のブランドなのだそうだが、実は韓国で初めて自動車用のタイヤを製造したメーカーなのだそうである。少なくとも、その転がり感や静粛性の高さなどは、他の有名ブランドタイヤに全く遜色なく、OEタイヤであれば、次もこれをつけてよいと思う。市場では比較的安めであるが、その出来はOEタイヤとは違うと思うので、ネクセンを選ぶならOEタイヤが良いと思う。

ハッチバックに比べるとホイールベースで50mm延長され、全長は345mmも伸びているから、運動性能には差が出ると思うが、まだハッチバックに乗っていないのでその差は不明である。それでも空車重でもリア周りが暴れる、もしくは突き上げを食らうということは全くない。
例によって、低負荷中に2番と3番シリンダーを休止させる、アクティブシリンダーマネージメントを装備するほか、街中で走って注意していると、かなり頻繁にエンジンそのものを止める。アクセルオフにするとタコメーターがゼロを指すからそれとわかるが、注意していなければいつ止まっていつ再始動したかは全く気付かない。ましてやシリンダー休止などわかるはずもない。それほどスムーズにそれは行われる。

◆アクセルペダルとブレーキペダルの段差
今回少しだけ気になったことは、アクセルペダルとブレーキペダルの段差と言うか、高さの違い。これはアウディ『A5』に試乗した時も少し気になったのだが、ペダルを踏みかえる時に、その段差が従来よりも大きくなっているのではないかという点である。かつて同じようなことをジープも行っていて、ジープ曰く、踏み間違いをしにくくするのが理由だそうだが、果たしてVWグループではどんな理由でそれを行ったかは定かではないし、そもそも個人的なフィーリングなので、もしかしたら変わっていないのかもしれないが、踵を支点にペダル操作を行った時、靴のウェルトが大きい場合は気をつけた方が良いかもしれない。
インフォテイメント系は新しくなっている。センターディスプレイもサイズが12.9インチに大型化されている。とはいえ相変わらずナビの使い勝手は良いとはいえず、直感的操作がしにくい。このナビ、実は本国で作られているそうで、まあ言わば押し付けられている状態。残念ながらそれだけ日本市場のプレゼンスが落ちているともいえる。

価格は車両本体価格が393万9000円。これにオプションのディスカバーパッケージ(17万6000円)と、テクノロジーパッケージ(24万2000円)が載って試乗車は435万7000円。ディーラーオプションとなるフロアマットは別だから実際にはもう少し高い。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。