「クルマの中で好きな音楽を良い音で楽しみたい」、そう思いながらも「コストがかかるから…」と二の足を踏んではいないだろうか。しかし、予算ゼロ円、またはそれに準じるローコストで行えることもいろいろとある。当特集では、それらを1つ1つ紹介している。
クルマいじりを楽しんでいるのなら、「デッドニング」に挑戦しても面白い!?
さて今回は、「デッドニング」を自分で行うことについて解説していく。昨今はコロナ禍ということもあり、クルマいじりを楽しむ層が増えている。よって、スピーカーをはじめとするカーオーディオユニットの取り付けを自ら行おうとするドライバーも増加中だ。もしもそのようにDIYでカーオーディオを楽しもうとするのなら、「デッドニング」にトライするのもアリだ。
では最初に、「デッドニング」とは何なのかを説明しておこう。「デッドニング」とは簡潔に言うと、「クルマのドア内部の音響的なコンディションを整える作業」だ。
このような作業が必要となる理由は以下のとおりだ。カースピーカーは、スピーカーユニットが裸の状態で売られている。対してホーム用のスピーカーは、スピーカーユニットが箱(エンクロージャー)に取り付けられた状態で完成品となっている。そしてその箱も、当然ながらスピーカーの一部だ。その箱についても、メーカーの英知がさまざま注入されている。
一方カーオーディオではクルマのドアがエンクロージャーの役割を果たすのだが、ドアはスピーカーとしては設計されてはいない。ゆえに、音響的なコンディションが劣悪だ。クルマの中でより良い音を楽しみたいと思ったら、それを改善する必要がある。ゆえに「デッドニング」が行われるのだ。
ちなみに「デッドニング」は、スピーカー交換とセットで行われることが多い。せっかくスピーカーを交換するのなら、スピーカーボックスであるドアのコンディションも上げた方が交換するスピーカーの性能を一層引き出せるからだ。とはいえスピーカーが純正のままでも、「デッドニング」は大きな効果を発揮する。なので、まずは「デッドニング」のみを行っても面白い。音の変化を楽しめる。
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「デッドニング」は、スピーカー交換等と比べてコストがかかりにくい!?
なお「デッドニング」は実は、奥が深い。実際、各「カーオーディオ・プロショップ」ごとで見解が異なる部分もいくつかある。それぞれが独自のノウハウを持っていて、セオリーやコツがさまざまあるのだ。なので、より良い結果を得ようと思うならその施工はプロに任せた方が確実だ。
しかし他のカーオーディオ機器の取り付けと比べると、比較的にDIYで行いやすいという側面があることもまた事実だ。なぜならパネル類をカットしたりパテ成形したりというような改造作業が必要なく、さらには配線作業も発生しない。
加えて、行ったことによる効果のほども感じ取りやすい。いろいろとセオリーはあるものの、なんらかを行えば必ずや音が変わる。その意味でも、DIYに向いている。
そして、コストもかかりにくい。部材代はある程度はかかってくるものの、スピーカーやメインユニットのように“メカ”ではないのでそれらに比べたら比較的に安価だ。そして自分で行えば当然ならが工賃は発生しない。また、軽めのメニューにとどめればさらにコストを抑制できる。ライトに行っても良いのだ。
では、「デッドニング」はどのように行うべきなのかその手順を解説していこうと思うのだが、その前に、「デッドニング」では何を目的としてどのような作業が行われるのかを説明しておきたい。それを頭に入れておくと、作業のコツの理解が深まるはずだ。
で、「デッドニング」にて行われることの中心は実は、「背圧(背圧)」と呼ばれるスピーカーの裏側から放たれる音エネルギーへの対処だ。なぜならこの「背圧」が、ドアの中でさまざまな悪さをしでかすからだ。
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「デッドニング」では、「共振」や「キャンセリング」の抑制が目指される!
では、「背圧」がどのような悪さをしでかすのかを説明していこう。まずは、ドア内部の鉄板を共振させ異音を発する。結果、スピーカーから放たれる音を濁す。
そして「背圧」が表側に回り込むと、「キャンセリング」という現象を引き起こす。これが起きるメカニズムは以下のとおりだ。スピーカーの裏側から放たれる音は耳で聴く分には表側から放たれる音と同じなのだが、波形的には真逆の関係となっている。このように耳で聴く分には同じでありながら波形的には真逆の関係となっている音同士が同一空間で干渉すると、お互いを打ち消し合ってしまうのだ。
なので「デッドニング」ではまず、スピーカーの裏側に「吸音材」が貼られて、「背圧」のパワーの減衰が目指される。また、「背圧」が跳ね返って振動板にぶつかることの抑制のために「拡散材」が貼られることも多い。「背圧」が跳ね返って振動板にぶつかると、振動板の動きにストレスを与えてしまうからだ。
続いては、鉄板の共振を抑えるための制振(防振)作業が行われる。「制振材」と呼ばれる部材を共振しやすい場所に貼り、鉄板をビビリにくくしていくわけだ。
そして「キャンセリング」を防ぐべく、サービスホールを塞ぐ作業も行われる。車種によりドア内部の状況は異なるが、多くの車種ではドア内部のメンテナンスを行うためにインナーパネルに大きな穴が開けられている。で、この穴から「背圧」が表側に回り込む。なのでこの穴を塞ぐ作業も必須となるのだ。
さらには内張りパネルにも、制振作業が施される。また、ドア内部の空間で「背圧」が響くことも防ぎたい。そのための「吸音材」が貼られることもある。
さて次回は、「制振材」や「吸音材」を貼るにあたってコツを紹介している。乞うご期待。
太田祥三|ライター
大学卒業後、出版社に勤務し雑誌編集者としてキャリアを積む。カー雑誌、インテリア雑誌、そしてカーオーディオ専門誌の編集長を歴任した後、約20年間務めた会社を退職しフリーに。カーオーディオ、カーナビ、その他カーエレクトロニクス関連を中心に幅広く執筆活動を展開中。ライフワークとして音楽活動にも取り組んでいる。